8話:お父様、どう考えてもおかしいです!
アレクとの教室での優雅な朝食を終えた私は、脳内会議を行う。
授業が始まっているが、それは今朝勉強したから既に理解できていること。目下の問題は、アレクを回避したいのに、なぜかそれが上手くいかないことだ。
朝活……朝勉をすることのメリットを考える。
まず、勉強をするのだから、成績はアップするだろう。
次にアレクと一つ馬車の中、登校せずに済む。
だがデメリットもある。
朝食を2回食べるのだ。間違いなく太るだろう。
しかも屋敷で食べる朝食なら、両親がいるのに! 教室だとアレクと二人きり。
これはメリット・デメリット、天秤にかけてもどっちがマイナスなのか、よく分からない!
では朝勉しないことのメリットは? ないわね。
ではデメリット?
アレクと両親と共に朝食を食べることになる。
アレクと一つ馬車の中、登校……。
朝活をする、しない、どっちもどっちな気がする!
ううん、落ち着くのよ、私。
アレクと一つ馬車の中は、回避できるかもしれないわ。
だって、お父様は私を溺愛しているのだから、こう言えばいい。
「未婚なのにいくら王太子殿下とはいえ、毎日一つ馬車の中は、いかがなものかと思います。お父様から殿下へ進言いただけませんか?」
うん。これなら角も立たない。それにいかにも深窓の令嬢らしい言い訳だ。それに父親なら間違いない。私の意を汲み、アレクに進言してくれるだろう!
そうと分かると気分が上向き、帰りの馬車では鼻歌までハミング。
屋敷に着くと、明るいパステルピンクのドレスに着替え、夕食の時間まで宿題と予習をして待つ。
そしてやってきました夕食の時間!
持っていたナイフとフォークをお皿に置き、ナプキンで口元を拭い、少しアンニュイな表情で切り出す。
「今日、お父様やお母様とは別々で朝食をいただきました。でもやはりお二人のいない朝食は、味気ないです。……朝、教室で勉強をするのは、止めようと思います」
まずは朝勉を止めることを伝える。次にアレクとの一つ馬車の中の件を、切り出すつもりでいた。
「まあ、そうなのね、クリスティ」「クリスティ」
母親の言葉に重ねるように、父親が口を開いた。
いつもはこの逆が多いので、母親も私も少しビックリしてしまう。
「クリスティ。朝というのは集中できると思う。それに一度決めたことは本来、やり遂げるべきだ。だからこうしよう」
そこから語られた父親の話は……私の想像のはるか斜め上をいっており、しかもそれは「嫌です、そんなの!」とは言いにくいものだった……。
◇
翌朝。
白いテーブルクロス。赤い薔薇が飾られた花瓶。
落ち着いた様子でパンを口に運ぶ父親。
スープを優雅にスプーンですくうアレク。
ナイフとフォークを手にしている私。
少し離れた場所で控えるメイド達。
運ばれてくる鴨肉のコンフィ……。
って、なんでこの三人で、教室で朝食とっているんですかー!?
どうして、こうなった!?
それは……。
私が朝活として、学校の教室で朝勉をする。そのため、父親とアレクが剣術の練習をしている間に朝食をとり、学校へ向かう。そうなると両親と朝食をとることができない。それは寂しい。だから朝勉を止めると両親に話した。
すると父親は……。
「ではアレク王太子殿下との剣術の練習は、学校で行おう。学院には、授業でも使う練習場がある。そしてあの学校は、我が祖先が創立したのだ。なんとでもできる。父さんと殿下が剣術の練習をしている間、クリスティは勉強をしなさい。終わったら三人で、教室で朝食をとろう」
いやいやいや、お父様、教室は勉強する場所ですからー!
おかしくないですかー!?
母親も目を丸くしていたが、父親は全身で、反論は受け付けませんオーラを出している。
こういう時の父親は、泣く子も黙るアイゼン辺境伯になってしまう。
その結果が、今だ!
教室で優雅に鴨肉のコンフィを食べている。
しかもナイフとフォーク、陶器のお皿を使って!
ただ、奇しくも私の目的は果たされている。
なぜなら学校へ向かう馬車は父親と一緒。
アレクはいない。
アレクは滞在先の別荘から、直接学校へ向かうからだ。
朝食は……なぜか教室だが、アレクと二人きりではない。父親もいる。
つまり問題はない……わけがない!
問題はありあり!
どう考えてもおかしいですよ、お父様!
「師匠」
いつの間にか父親のことを、アレクは師匠と呼んでいる。
でもまあ、剣術を習っているのだ。師弟関係であることは確かだろう。
「ここで朝食をとるのは、いささか問題があるかと」
アレクが至極真っ当な指摘をして、教室の扉の方へ視線を向ける。
気付けば窓からも教室の扉の窓からも、生徒の皆さんがこっちを見ていまーす!
「そうだな。では明日から別室を用意させよう」
「ええ、そうしましょう」
私は「え?」と固まる。
どうして、そうなります?
おかしいですよね?
途中までいい流れができていたのに。
どうして学校で朝食をとることを止めないんですかー!?
しかもお父様とアレク、変なところで意気投合していませんか!?