7話:なんですと!?
毎日、アレク=断頭台と朝食をとり、一緒に登校する。
あり得ない!
いくらアレクが素晴らしくても、彼は断頭台だ。
喉に優しく、甘くて香りのいいハーブの蜂蜜飴をくれたが、彼は断頭台なのだ!
そこで私が考えた別行動プラン。
それすなわち朝活! 早起きこそ三文の徳です!
つまり。
私は早朝の誰もいない教室で、集中力を高めながら勉強したいと両親に話すのだ。勉強をしたい。しかも学校で。止める理由なんてないはず!
アレクが父親と剣術の練習をしている間に、私は身支度を終え、朝食をとり、学校へ向かう。そして教室で勉強をする。そうすればアレクとの朝食&登校は回避完了。
クラスメイトとしてアレクはいるが、同級生が彼を放っておくわけがなく。短い休憩時間も、昼休みも、アレクは彼らに囲まれ、私とは接点ゼロ。よって朝食&登校さえ回避できれば、不要なアレクとの接触を避けられるのだ!
ということで学校から帰宅し、制服からラベンダー色のドレスに着替える。そして夕食の席で、私はこのプランを両親に話した。あくまで私が集中して勉強をしたいから、という理由で。
「な、何……!? クリスティ、わ、わたしと、ちょ、朝食をとらないというのか!?」
このプランを聞いた父親は、真っ白に燃え尽きたような表情になってしまった。それはまるであのボクシング漫画を思わせるような状態!
「もう、あなたったら! どうしたのですか? クリスティは集中して勉強したいと言っているのですよ。しかも学校で。いいではないですか!」
「クリスティと朝食をとれない。クリスティと朝食を……」
父親は完全に虚ろな状態だが、母親がしゃんとした状態で応じてくれる。
「いいわよ、クリスティ。後でヘッドバトラーにあなたの分の朝食だけ、早めに用意するように伝えておくから」
「お母様! ありがとうございます!」
目を輝かせ、父親をチラッと見ると、母親は「大丈夫。お父様のことはお母様が説得するから」と請け負ってくれた。
母親曰く、私が学校へ通うようになり、昼食を一緒にとることができなくなった。その時点で父親は、非常にショックを受けていた。それでも朝食と夕食は私と一緒。そう思っていた矢先で朝食は別々となってしまったのだから……。
これはさすがに父親が可哀そうに思う。
だが私が断頭台の露となり消える方が、もっと悲しいはず。ここは心を鬼にして、父親には我慢してもらうしかない。代わりに私は庭園で一輪の花を摘み、メッセージカードを添え、ダイニングルームの父親の席に置くことにした。メッセージカードには勿論、私が手書きで父親への感謝の気持ちを書いている。これを毎朝届ければ、父親の心も少しはなぐさめられるだろう。
こうして翌日の朝、プランを遂行する。
身支度を整え、一人で朝食をとり、庭園へ向かう。
そこで一輪、花を摘むのだが、そこからは剣術の練習をしている父親とアレクが見えている。父親は私に気づき、その顔に笑みを浮かべた。
するとすぐにアレクが好機と動くが、あっさりかわす。
アレクが悔しそうにして、父親が快活に笑う。
その光景は実に清々しい。
どうしてこの景色に目を背け、私は一人、学校へ向かうのか。
自分が悪役令嬢として転生したことを理不尽に思うが、仕方ない。
すべきことを終え、馬車に乗り込み、後は学校へGO!だ。
こうして学校に到着した私は、教室で黙々と勉強をした。
誰もいない静かな教室。
授業を受けるために用意されている部屋なだけあり、集中力を途切れさすものはなかった。
まさに全力で勉強に取り組んだ結果。
「お腹空いた……」
朝練の後、お腹が空く運動部の女子みたいだ。
運動はしていない。
でも脳をフル稼働させたので、朝食を食べているのに、何か食べたい気分になっていた。
「おはようございます」
爽やかな声音は耳に心地良いはずなのに!
私はギクリというトホホな反応をしている。
教室へやって来たのは、アレク!
剣術の後とは思えない程、ブロンドの髪はサラサラ。
白シャツにシルバーグレーのベスト、そして紺のブレザー。
紺地に白のチェック柄のズボン。
大変よく似合っている。
アレクは鞄以外に紙袋を持っており、こちらへと近づく。
大天使のような微笑みを浮かべ、断頭台がこちらへやって来る……!
思わず身構える私に対し、アレクは朗らかにこんなことを言い出す。
「頭を使ったら、お腹が空くだろう? それをクリスティの父君に提案したら、ほら、ブレックファーストボックスを用意してくれたよ」
……!
これは嬉しい。何せまさに「お腹空いた」と呟いていたのだから。しかし紙袋から取り出したブレックファーストボックスは、二つ? さすがに食べ盛りの年代とはいえ、二つは……。
するとアレクは私の心を読んだのだろうか!?
「僕も一緒に食べようと思って」
なんですと!?
「一人で食べるより、二人の方が美味しくなるだろう?」
そ、そういう問題ではありません!
と思ったら。アレクが指をパチンと鳴らす。
するとその合図と共に、メイドが登場。
しかも彼女達の手には、ティーポットやティーカップなどティーセットが!
メイドは当たり前のように、紅茶を入れ始める。
ま、待ってください。
ここ、教室です! おかしいですから!
「さあ、食べよう、クリスティ。僕もさすがにお腹がぺこぺこだよ」
うっ、そう言われると、朝食を食べさせてあげたくなる。
こうして私は、なぜかアレクと二人、教室で優雅に朝食(私は二度目)を食べることになった。
お読みいただき、ありがとうございます!
完結のお知らせです。
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『婚約破棄の悪役令嬢は娶られ、翻弄され、溺愛される』
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まさか、まさかの展開で最後まで飽きさせません。
ざまぁもあるハッピーエンド、一気読みでスカッとどうぞ!
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