68話:至極自然な流れだけど……
衝撃的だった。
ヒロインが、ポンネットが、アイゼン高等学院に転校してくるなんて!
ただ、そうなっても仕方がない状況。
何せ王都には攻略対象がいないのだから。
でもまさか同じクラスになるとは。
アイゼン高等学院は、良家の令嬢令息が通う学校で、3クラスしかない。
まずデュークがC組に転入している。
そしてジュリアスはB組。
そしてポンネットがアレクと私がいるA組に収まった。
クラス分けまで父親は関与していないと思う。
ただ、学院としては特定のクラスに転校生を集中させず、分散させたのだろう。
つまり私達のクラスにポンネットが転校生として登場するのは……至極自然な流れだった。さらに言えば、ゲームの世界としてもここでようやくヒロインと王太子が出会えるのだ。ポンネットをB組やC組に振り分けるわけがなかった。
とはいえ、私はもう驚愕。
そんな様子の私を見て、ポンネットは口元だけ「ニヤリ」と笑ったのだ。
これは明らかに私への宣戦布告だろう。
ただ幸いだったのは、ポンネットの席は後ろの方になり、私の視界には入らないこと。それだけが救いだった。そして休憩時間は「王都から来たんだ! しかも侯爵家のご令嬢、すごい!」とクラスメイトがポンネットをちやほやしてくれるので、関りを持たずに済んだ。
ただ、昼休みになると……。
学級委員が「転校生が入ったんだ。みんなでお昼ご飯を食べよう」と提案してしまう。そして気が利く学級委員はこんなことを言い出したのだ。
「殿下も王都に住んでいましたよね。フィーリス侯爵令嬢も王都のこと、殿下と話したいのでは? 殿下と婚約者のアイゼン辺境伯令嬢は、こちらの席へどうぞ」
まさかのアレク、ポンネット、私の並びで、カフェテリアの席に着くよう提案されたのだ。
「委員長、提案ありがとう。でも僕は婚約者と一秒でも離れたくないと思っている。よってフィーリス侯爵令嬢の斜め左のこの席に、婚約者と並んで座らせていただくよ」
アレク……!
その配置ならポンネットを避けているわけではないが、私とは距離ができるし、自身もポンネットから触れられる距離ではなくなる。咄嗟の判断として完璧だった。
アレクの判断は完璧ではあっても、ポンネットは……。
「まさか新聞で眺めていた有名なお二人に会えるなんて光栄ですわ! お二人はクラスメイトだったのですね! 新聞ではそこまで触れられていなかったので。それで王太子殿下はなぜ、この学院に入学なさったのですか?」
そこから!?という質問から始まり、私と出会った時の印象、どちらが先に好きになったのか。好きになったきっかけはなんだったのか。秘密の恋はどうやって育んだのか。
それはもう根掘り葉掘りの質問攻め。
クラスメイトは誰一人して、そんなこと聞いたことがない。
でも気になっていることではある。
よってポンネットの近くに座るクラスメイトは、ポンネットを止めることはない。逆に「優雅な朝食」の件を教えたり、社交界デビューでのエスコートの件を話したりで、燃料を投下。
昼食中はすべてアレクと私の話で終わってしまうのでは?
そう思えたが……。
「フィーリス侯爵令嬢。僕とクリスティに興味を持っていただけて、とても嬉しいです。ただ、僕達の話ばかりで、他のクラスメイトと話す機会を奪っている気がします。ソワン、アデラ嬢、良かったら席を交代しよう」
アレクは長テーブルの一番端に座っていたクラスメイトに声をかけ、席を交代したのだ。
ポンネットは「まあ、まだお話は途中なのに……」と悔しそうにしているが、だからと言ってソワン、アデラに「あなた達はお呼びではない」と言えるわけがない。
こうして端の席に移動した私はホッとすることになる。
「もしかしてクリスティが予知夢で見た令嬢は、あのおしゃべり侯爵令嬢?」
アレクが私の耳元に顔を近づけて話すので、心臓が飛び出しそうになる。
彼の息がかかるし、体温が感じられるし、瞬時に全身が熱くなっていた。
それでもなんとか応じる。
「そ、そうです」
「なるほど。クリスティの予知夢みたいなことにはならないよ。だって僕、今の時点で、全力で距離を置きたい令嬢だと感じているから。本能的に嫌悪感しかない」
この言葉は少し安心材料にはなる。
アレクはオリエンテーリングでも、みんなと仲良くなれるよう、昼食を沢山用意していた。将来、国の頂点に立つだけあり、視野が広かった。
対して先程のポンネットは、あくまで個人的興味でべらべらと質問を続けていた。それは奇しくもクラスメイトも聞きたかったことではあり、その場は盛り上がっているように見えたが……。
声を出し、話しているのはポンネットとアレクがほとんど。熱心に聞いているのはこの二人の周囲に座る数名。残りのクラスメイトは食事に集中し、近い席の人と話している。
オリエンテーリングの時のアレクは、円陣を組むように座ったが、いろいろな生徒に声をかけた。席が遠い生徒にも声をかけ、その場全体で話を盛り上げようとしたのだ。
つまりアレクとポンネットでは、思考法が真逆と言える。
これなら好感度ゼロになってしまっても……仕方ないのかもしれない。
ともかくこの日は、この昼食以外でアレクがポンネットと会話をすることはなかった。






















































