66話:婚約式
王宮の庭園で行われる婚約式。
大きな噴水があるが、そこには白や黄色の薔薇の花が浮かべられている。
国旗や王太子旗、我が家の辺境伯家の旗、そして沢山のバルーンやリボンも噴水を中心にした一帯に飾られていた。
庭園の夏の花々も咲き誇り、空は眩しい程の夏空が広がっている。
今日のために用意した私のドレスは、アレクの瞳と同じ、セレストブルー。
身頃は大小さまざまな模造宝石があしらわれ、チュールは左右に飾りのように重ねられている。そのチュールには模造宝石と花々をあしらった刺繍が施され、とても美しい。
髪はサイドポニーテールにして、いつもの髪飾り。ネックレスとイヤリングはアレクにプレゼントされたものをつけている。既につけていた婚約指輪は一旦はずしていた。婚約式のセレモニーで、改めてアレクにつけてもらうのだ。
結婚式ではないので、控え室でアレクと落ち合っている。
そのアレクはベストとズボンはセレストブルーで、フロックコートは白。シルバーグレーのタイに、前髪は分け目を変え、三分の一を後ろに流している。その完璧なカッコよさに頬が緩んで仕方ない。
サンシャインイエローのドレス姿の母親はアレクと私を見て「とってもお似合いだわ~」とニコニコ。パールシルバーのフロックコート姿の父親は半泣き笑いで、嬉しいのに嬉しくないと複雑な表情をしている。国王陛下夫妻は「わたし達の若い頃のようだ」とご満悦。他の王族の皆さんも祝福の言葉をくれた。
大聖堂の鐘が十一時を知らせる。
普段は九時に鳴り、次は十二時に鳴るのだけど。
今日はこの婚約式のために特別に鐘を鳴らしてくれたのだ。
一足先に父親が控え室を出て、他の人々はゆっくり移動を開始。
私はアレクにエスコートされ、噴水の前に設けられた祭壇の前へ向かう。
その祭壇には父親が待っており、祭壇の左右には椅子が置かれ、辺境伯家から来た親族、副官や部下が勢揃いしている。デュークやジュリアスも参加してくれていた。二人とも、ワイン色のフロックコート、濃紺のフロックコートと、かっこよくきめてくれている。
祭壇の前に到着すると、父親が大きく息を吐き、その瞬間。
あの複雑な表情から凛々しい辺境伯の顔に変わる。
国王陛下夫妻や王族、私の母親も着席した。
いよいよ婚約式スタートだ。
「本日はお忙しい中、王太子アレク・ウィル・ミルトンと、我が娘クリスティ・リリー・アイゼンの婚約式に参列いただき、誠に嬉しく思います。二人は今日この時、婚約誓約書にサインを行うのです。証人はここにいる皆様。どうぞ、最後まで見守ってください」
そこで拍手が起き、楽団がお祝いの音楽を奏でる。
父親が祭壇に婚約誓約書の紙を広げ、再び口を開く。
「ではまず、アレク・ウィル・ミルトン。殿下、あなたはクリスティ・リリー・アイゼンを婚約者に迎え、永遠の愛をここに誓いますか?」
「はい。誓います」
「では続いてクリスティ・リリー・アイゼン。あなたはアレク・ウィル・ミルトンの婚約者となり、永遠の愛をここに誓いますか?」
「はい。誓います」
先程以上の拍手が起き、楽団の音楽もさらに会場を盛り上げてくれる。
「それではこちらの婚約誓約書に、順番にサインをしてください」
父親に促され、アレク、私の順で婚約誓約書にサインを行う。
私達がサインを終えると、父親はそれをこの日の証人となる参列者に見えるよう、高々と掲げる。再び拍手が沸き起こる。
「では続いて、この場で婚約指輪を、共に交換となります」
指輪の交換は、通常結婚式。
この婚約式では、アレクが私に婚約指輪を贈るだけが慣例。
でも二人で交換だが、みんな、既に指輪をつけているのを知っているので、驚きはない。
改めてお互いに婚約指輪をつけると、スタンディングオベーションでの拍手を送ってくれる。こうして婚約式は無事、終了。
緊張するかと思ったが、目の前に父親がいて、隣にアレクがいるのだ。
最強の二人がいるのだから、恐れる必要なんてない!
そう思うことで予想より緊張することなく、むしろ喜びいっぱいで婚約式に望むことができたと思う。何よりやることが少ない! 誓いの言葉に同意し、サインし、指輪の交換だけ。しかも母国語だから。
前世でいとこの結婚式に参列したことがあるが、いとこのお兄ちゃん曰く。
「英語の誓約に、英語で返事をするだけで緊張する。しかも挙式でやることが多いから! 指輪の交換だって、相手のグローブはずす必要があるし、誓いのキスではベールをあげないといけない。どちらも気を遣うんだ。その合間にサインしたり、牧師の話聞いたり、賛美歌聞いたり、とにかく忙しいんだよ!」
そう聞いていたので、それに比べると婚約式はシンプルであり、しかも参列者は本当に身内と親しい人のみ。ゼミやサークルの先輩とか忖度して人を呼ぶわけではなかった。気の置けない仲間とのセレモニーという感じで気持ちも楽だった。
婚約式が終わると、昼食会。
こちらの昼食会はバンケットホールで行われ、多くの貴族が招待されている。
まるでプレ披露宴みたいなもの。
ただ、昼食会の開始の挨拶で、アレクが御礼の言葉を述べたが、堅苦しいのはそれぐらい。特にひな壇がもうけられているわけではなく、晩餐会のように昼食を楽しむことができた。その後はお祝いで花束やプレゼントをもらい、それで終了だ。
なんだかあっという間だった。でも新聞記者も、実は後方でこの婚約式の様子を見守っていた。号外が配布され、夕刊にはアレクと私の様子を描いた絵が掲載される。
さらに国内外に、王家から正式にアレクと私の婚約が伝えられた。
乙女ゲームの中では、一行で記載が済まされていたイベント。
『攻略対象の一人、王太子アレク・ウィル・ミルトンは、十五歳の時、アイゼン辺境伯の娘クリスティ・リリー・アイゼンと婚約。』
ループ二度の人生。婚約式は、クリスティだけが乗り気で行われている。
でも三度目の人生の今、アレク自身も両親も国王陛下夫妻も。
みんなに祝福されての婚約式を迎えることができた。
ちなみに。
王太子妃教育。
こちらは年明けから開始と言われた。
王都から家庭教師がやって来るとのことだった。
断罪回避の次に大変なことって、やはりこの王太子妃教育だよね……。
でも。
愛するアレクのため、頑張らないと!
この時の私は、意気揚々としていた。
領地に戻ると、とんでもないことが待ち受けているとは、露知らずに……。
お読みいただき、ありがとうございます!
第三部、いよいよスタートです。
そして。先週はいろいろありました!
まずはとあるコンテストで4つの作品が一次選考突破、現在二次選考中です。
読者様の応援に心から感謝ございます!
詳しくは活動報告を投稿していますので、気になる方はご覧くださいませ~
そして完結と新章スタートのお知らせです!
【完結】全47話一気読み!
『悪役令嬢です。
ヒロインがチート過ぎて嫌がらせができません!』
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ラストは絆に心がほっこり。
ざまぁがあってもハートフルなハッピーエンドです!
【新章開始】コンテスト二次選考中
『転生したらモブだった!
異世界で恋愛相談カフェを始めました』
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章ごとに読み切り!
恋愛・結婚・夫婦の悩みに主人公がズバリ回答!
【新章開始】コンテスト二次選考中
『悪役令嬢は我が道を行く
~婚約破棄と断罪回避は成功です~』
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感動の前章から続くあの二人の恋の行方は――。
新章「風媒花とヒヤシンス:変わらぬ愛の物語」を
ぜひお楽しみください。
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