65話:チャンス到来と思いきや!?
「釣りはもう満足です!」
「え?」
「釣りよりも散歩をしましょう。体を動かし、お腹を空かせたいです!」
そこでアレクと私、同時に釣竿に手応えがあった。
ちゃんと釣り上げ、調理スペースに届けると、釣りは終了!
湖のほとりを散歩することにした。
「ここの湖も本当に美しいよね。夏空が湖面に映り込んで、まさしく絶景だ」
「湖面が鏡のようですよね。こういう天気のいい日は、釣りよりも湖を眺め、散歩が一番です!」
「そうだね。僕はどんな天気でも、クリスティと二人で散歩がいいな」
みんなが釣りをしているスペースから、結構離れていた。
ある程度距離もでき、ドッと沸いた瞬間の令息達の声は聞こえるが、それも遠い。
少し離れた場所に、護衛の騎士がいるのは仕方ない。
でもこれなら……いいわよね。
手をつなぐくらい……。
そう思うものの。
すぐそばにアレクの美しい手があるのに。
触れる勇気が……ない。
前世だったら。女子から男子と手をつないだり、腕を組んだりはあるだろう。でもこの世界では、それはあり得ないこと。男性のリードが基本だ。
アレクは……手をつなぎたいとは思っていないのかしら?
「クリスティ」
「、ひゃいっ!」
驚き過ぎて挙動不審になってしまう。
「綺麗な湖より、僕の手をじっと見ているけど、何か気になる?」
「! え、えーと……。殿下の手が、剣術をしているとは思えない程美しい……そう思っていました」
「あ、ああ、そういうことか。うん、そうだね。昔はよく豆もできて、つぶれたりしていたけど……。剣の腕が上達し、手袋も改良したからね。それに令嬢のように、クリームを塗ってから寝ているんだ」
令嬢のように……。
私、ズボラだから、眠る前にハンドクリームなんてつけていない!
思わず自分の手を見ると。
「触ってみる、僕の手?」
「!」
心臓が止まるかと思った!
でもこれは手をつなぐ絶好のチャンスよね!
「ふ、触れて、確認してもいいのですか!?」
「勿論」
立ち止まり、アレクと向き合う。
ふわりと風が抜け、彼のサラサラのブロンドが揺れている。
地上へ舞い降りた大天使の手に触れるような気持ちで、手を伸ばした瞬間。
何かの気配を感じる。
ま、まさか、これは……!
お父様!?
がさっという音と気配を感じた森の奥の方へ視線を向けると、大きな黒い塊が見える。
やっぱりお父様が来ていたのね……!
手をつなごうとしたことが、バレてしまったかしら!?
「クリスティ、僕の背後に隠れて!」
「えっ」
「ブラウンロアだ。逃げ切れない、早く!」
ブラウンロア!?
“森で咆哮する者”という名を持つこの獣は、前世で言うならクマに近い。
まさかブラウンロアに遭遇するなんて!
念のためで帯刀していたアレクが剣を抜く。
少し距離を置き、控えていた護衛の騎士達も、一斉に剣を抜いている。
「王太子殿下と婚約者をお守りしろ!」
護衛の騎士達は、アレクと私を守るため、こっちへ向かっていた。そして黒い塊に見えたブラウンロアは、それなりに距離があったと思うのに。護衛の騎士達を上回る勢いで、目前に迫っていた。
想像以上に素早く動くブラウンロアに恐怖を感じ、声も出ない。
け、剣でブラウンロアって倒せるの!?
心臓のバクバクがピークに達したまさにその時だった。
!
「貴様ーっ! 娘のデートを邪魔するなど、言語道断! そこになおれ!」
大音量の声、そして鬼の形相と気迫で父親が登場。
「辺境伯、お止めください! 危険です!」
副官の制止を無視し、剣を構えた父親が、ブラウンロアの進路を塞ぐように現れた。
その鬼気迫る姿と大声に、ブラウンロアの動きが止まる。
父親は元々長身だった。
でも今はその気迫により、倍ぐらいの大きさに見えた。
しかも今はこちらへ背を向けているが、眼光に宿ったギラリとした輝きは、猛禽類を思わせる獰猛なもの。普通の人間なら腰を抜かし、戦意喪失だろう。
そして野生の動物は、本能で危険を察知する。
この父親の全身を逆立てるような憤怒のオーラにブラウンロアは……圧倒された。
「森の奥へ帰らんか!」
怒声で鳥が一切に飛び立ち、ブラウンロアも明らかに体を震わせている。
そして次の瞬間。
くるりと背を向け、ブラウンロアが逃げ出したのだ!
「さっさと森へ帰れーーーー!」
父親は猪突猛進でブラウンロアを追う。
もはやブラウンロアは泣きながら逃げている状態。
「辺境伯、もう大丈夫です、お戻りくださいーーーーっ!」
副官他、父親の部下が後を追う。
恐らく、完全に危険が去る距離まで、ブラウンロアを追い立てるつもりなのだろう。
残された私達は、衝撃でしばらく動けない。
前世で見た動画サイトで、気迫でクマを撃退した外国人がいたけれど……。
あれ、お父様の生まれ変わり?
本来、こんな方法では撃退できないと思う!
そんなことを考えている場合ではない!
私はなんとか声を絞り出す。
「お、お父様が……」
「どうやら師匠は……僕達のことを見守ってくれたようだね」
「そうみたいです……」
父親の部下は、常に弓矢を携帯している。
それにブラウンロア狩りにも慣れていた。
今回、あのブラウンロアを狩るつもりはないだろう。
だがいざとなれば、父親と副官たちであれば、ブラウンロアにも対処できるはずだ。
大丈夫だと分かり、ようやく安堵できた。
アレクも護衛の騎士も剣を収めた。
「師匠が心配しないよう、釣りをしようか」
「そうですね」
父親はアレクとの婚約は認めてくれたけど、どうやらまだまだ私のことが心配みたいだ。
でも父親の過保護により、事なきを得たと思う。
結局、アレクと手をつなぐことはできなかった。
でもチャンスはきっとこれからもあるはず……!
~第二部・完 To be continued……~
お読みいただき、ありがとうございます!
第二部では私とアレクの気持ちが遂に一つに!
その一方でお父様の過保護ぶりはヒートアップ↑↑↑
第三部では、王都で行われる婚約式からスタート!
幸せの絶頂の私とアレクですが
この世界にはヒロインが確かにいるわけで……。
さあ、どうなる!?
第三部は来週より連載スタートです☆彡
第三部スタートまで、ぜひ『森でおじいさんを拾った魔女です~ここからどうやって溺愛展開に!?』をお楽しみいただけると幸いです。おじいさんに起きた激変と別れを経て、じれじれしながら物語は進行中! このじれじれが癖になるキュンの連続で、思わずクスリと笑いたくなる! 読んで損ナシ、そもそも無料ですので気軽にお試しくださいませ~☆彡
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【お知らせ】第六章スタート!
第5回HJ小説大賞前期の二次選考中作品
『転生したらモブだった!
異世界で恋愛相談カフェを始めました』
https://ncode.syosetu.com/n2871it/
章ごとの読み切り作品。
第六章開始です。
併読されていた読者様、お待たせいたしました!
ぜひご覧くださいませ~
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