64話:二人きりになるチャンス!?
アレク、デュークと私の三人で過ごすことが多いバカンスシーズンの日々。
そんな日々から数日後。
クラスメイトから釣りに誘われた。
三人での外出ばかりで、なかなかアレクと二人きりになれない。
二人になったところで、父親が心配するようなことをするつもりはなかった。
それでもちょっと手をつなぐ。
それぐらいしてもいいではないですか!
前世小学生や幼稚園児でさえ、手をつないでいたというのに。
この世界ではそれすら憚られるなんて。
き、厳し過ぎます……。
この現実を踏まえると。
釣りに行く。
しかもクラスメイト=大勢。
父親はきっと、大勢で釣りに行くなら大丈夫だろう――そう思うはず!
これはアレクと二人きりになれるチャンスでは!?
だって釣りは必ずしないといけないわけではないと思う。
それこそある程度人数がいるのだ。
(本当はいけないけど)さぼったり、釣り以外のこと、例えばおしゃべりをしたり、バードウォッチングをしたり、ちょっと近くを散歩しても、許されると思うのです!
ということで。
もしかしたらアレクと二人きりでのんびりおしゃべりできるかもしれない。
なんなら手をつなぐこともできるかもしれないと考え、釣りに行く日を心待ちにした。
そしてやって来た釣り当日!
天気は上々。
ドレスはくるぶし丈の白のものを選ぶ。襟や裾に明るい碧色のレースが飾られ、避暑地のご令嬢っぽくなる! 左側で束ねた髪にはいつもの碧い石の髪飾り。それ以外の宝飾品は、森の中で落としたりすると困るのでナシ。
虫除けと日焼け対策でレースのアームカバーは欠かせない。あとはストローハット。碧いリボンがついているお気に入りだ。
剣術の練習と朝食を終えたアレクとデュークと共に、集合場所の森の入口まで馬車で向かう。
今日のアレクは白シャツに淡い碧色のズボン。デュークは明るいグレーのシャツにスモークブルーのズボン。スズメバチが黒を標的にしやいと言われているので、皆、明るく淡い色の服装をちゃんと選んでいた。
馬車の中でデュークは、この日のために新調した釣竿について熱く語っている。父親の発案で釣り体験をして以降、デュークは釣り好きになっていた。王都に滞在中は、貴族専用の釣り堀にも何度か足を運んだと言う。
「よっしゃ、到着だ! 昼飯が満腹になるよう、釣って、釣って、釣りまくるぞー!」
デュークは馬車から勢いよく飛び降りると、ご機嫌で駆け出す。
釣りに夢中で、アレクと私のことは眼中にない。
これには内心「よっしゃっ!」と思ってしまう。
デュークが釣りをしている間、アレクと二人きりになれるはず!
こうして集合したクラスメイトと合流。
久々の再会に喜び、湖に着くまでは、アレクと私の婚約話で盛り上がる。
もはや「優雅な朝食」の件もあり、社交界デビューでのエスコートの件もあり、そしてオリエンテーリングも一緒だった。つまり何度となくアレクと私が一緒にいるところは目撃されている。よって「やはりこうなると思っていましたわ」「悔やしいぐらい美男美女でお似合いなんだよなー」「とにかくおめでとうございます!」という感じで祝ってもらえた。
おしゃべりに夢中になりながら歩いていたので、あっという間に湖に到着。
早速、釣りのために準備が始まる。
と言っても。
釣りをやるぞー!と盛り上がっているのは男子ばかり。
令嬢達はベンチに座り、侍女が用意したお茶菓子と紅茶を手に、寛ぎモードに突入。
つまり釣りをする令息を眺め、声援を送りつつ、楽しむというわけ。
令息達が頑張って釣り上げた魚は、同行している各家の従者やメイドが協力し、調理する。焚火の準備は万端で、折り畳みテーブルが広げられ、まな板、フライパン、食器の用意も行われていた。
デュークは一番乗りで魚を釣り、周囲の令息とハイタッチ。
アレクと私も「さすが、デューク!」と声援を送った。
「クリスティ、僕達も釣ろうか」
「! そ、そうよね……」
私はちゃっかり、二人きりで散歩でもしちゃおうと思っていた。
でもアレクは真面目に釣りをしようとしている。
二人きりになりたい……切望していたのは、私だけなのかしら。
先走ってしまい、なんだか恥ずかしいわ……。
でも気を取り直し、折り畳み椅子に座り、釣りを始める。
日陰のベストポジションだったようで、早々に一匹釣り上げた。
「……クリスティは釣りが好きだったよね」
「はい。子供の頃から釣っているので」
「今日の目標は?」
「目標……」
特に考えていなかった。
むしろ釣りより、アレクとお散歩しか考えていない……。
「もしクリスティの目標とする数字があって、それを達成できたら……。釣りは休憩にして、その……」
そこでアレクの釣竿に反応があり、見事一匹釣り上げた。
すぐに従者がアレクと私が釣った分を、調理スペースへ運んでくれる。
「ごめん。話が途中だったね。……もしクリスティが釣りに満足できたら、散歩でもどうかな、って。……二人で」
頬をぽうっと赤く染めたアレクを見て、心拍数は急上昇!
私が釣りを好きだと知っていたから、まずは釣りをすることにした。
でも本当はアレクも、二人で散歩したいと思っていてくれたのね……!
お読みいただき、ありがとうございます!
スモークブルーは、少し暗い感じの、くすんだ薄い青色です。
さて。
お盆休み・連休はお終いで、また新たな一週間が始まりますね。
無理なくのんびり参りましょう~☆彡






















































