54話:アレクのイメージ、崩壊の危機!?
「ミルトン王国の王太子であるアレク・ウィル・ミルトンと、アイゼン辺境伯の娘クリスティ・リリー・アイゼンの婚約を許可する」
多数の宝石が煌めく王冠をかぶり、深海色のマントをまとった国王。
彼の凛とした声が謁見の間に響き渡り、両親と私は背筋を伸ばす。
玉座のそばに控えるセレストブルーのセットアップに白銀のマントのアレクが、陶器のような頬を薔薇色に染め、微笑んでいる。
彼と同じセレストブルーのドレス姿の私は、ドクドクと鼓動が大きな音を立て、もう失神しそう!
遂に正式にアレクと私の婚約が認められた。
これまで、乙女ゲームの“花恋”の進行にことごとく反逆している。でも今回、大きな流れに乗った形だ。アレクを信じ、最終的に私が下したこの決断。
間違いではないことを信じたい……。
父親が国王への御礼の言葉を終え、侍従長が国王に書類トレーの木箱を差し出した。そこから紙の束を取り出した国王は、おもむろに口を開く。
「王家との婚約契約書は、こちらが提示することになっている。伝統的に使われる契約書だ。通常は日付程度や名前の記載を変えたもので即締結となる。だが今回、アレクはいくつもの修正を行い、新しい条項まで盛り込んだ。正直、驚いた。この婚約契約書では、婚約破棄をアレクが言い出せば、彼は王太子の身分を失う。貴族となり王家を去るしかなくなる。しかも莫大な違約金を背負う」
そこで国王は父親をじっと見る。
「初代アイゼン辺境伯は、建国王の忠臣であり、親友だった。彼は国を守るため、王都を離れ、北方の地を守ると誓ったのだ。以後、何世代にも渡り、アイゼン辺境伯は北方の防衛拠点として国を守る盾となってくれた。わたしはその忠誠を疑うつもりはない。……この婚約契約書の変更事項、これにアイゼン辺境伯は一切関わっていないのだろうな?」
「父上、何度も申し上げました。すべての変更と追記条項は僕が考えたものです。僕は絶対にクリスティと結ばれたいと思っています。ですがまだ僕もクリスティも結婚が認められる年齢に至っていません。学生です。それにクリスティはこれから王太子妃教育を受けるという状況。その間に、僕に何が起きるか分かりません!」
父親が答える前にアレクが熱く語り出した。
「僕の意志に反した邪悪な力がクリスティとの婚約破棄を目論むかもしれないのです。そうならないため、僕の意志で変更と追加を決めたのです。師匠……アイゼン辺境伯から指示を受けたわけではありません!」
アレクは聡明な王太子のはずなのに。
私の予知夢の件を話せないので、話せないというか、さすがに話しても信じてもらえないだろうということで、伏せていたのだ。その結果、「邪悪な力」なんて言い出したので、その場にいた宰相や内務大臣ほか重鎮の皆様の目が、点になってしまっている……。
賢く優秀な王太子であるアレクのイメージが、崩壊してしまう。
どうしたものかと思った瞬間。
「そうか。……血は争えないのだな。わたしも……王妃のこととなると、まさに“恋は盲目”状態だった。わたしの時は、王妃から婚約破棄ができないようなガチガチの婚約契約書を用意したが……。そうか。アレクはわたしを超えた愛を示したのだな。そこまでクリスティ嬢を愛してしまったのなら、仕方あるまい。この婚約契約書を認めよう」
そこで私は以前、アレクから聞いていた国王の話を思い出す。
国王は王妃のことを大好き過ぎて、新婚の頃は彼女の私室でしばらく執務をしていた。猟犬の名前に王妃の名前をつけたことで、使用人が困ったこと(迂闊に犬の名前を呼べない!)を話してくれていたのだ。
血は争えない……。つまり王家の血筋は溺愛タイプだったのね……!
おかげで迷走気味なアレクの発言も「恋は盲目」で片付けられた。しかも重鎮達も、過去の国王の婚約時のことを思い出したのだろう。「ああ、この親子、こと色恋沙汰の話になると、常識が通用しなくなるんでした」という顔をしている。
つまり、冷静に考えると「ほ、本当にこの婚約契約書でいいのですか!?」と思えるものものが、許可されてしまったのだ。しかもその場で署名までした。
本当にこれでいいのでしょうか……?
よいのです。
なぜならここは乙女ゲームの世界。
私とアレクの婚約は必定なのだ。さんざん私が迷い、アレクとの婚約を回避しようとしていた。だがここに来て、婚約を受け入れたのだ。ならばそのまま、婚約してください、なのだ、この世界としては。
私はここで悟る。
シナリオの強制力に勝った!と。
花恋という乙女ゲームの世界では、婚約契約書なんて細部まで定めていない。ゲームの進行の流れの中で、「こうして悪役令嬢と王太子は婚約契約書を結んだ」と一行触れる程度。結べばいいのだ、契約書を。そのことで後々、アレクがどうしたって婚約破棄できない状況になることは、現時点で気づかれていない。つまり後から気づいても遅いのですよ!ということ。
「立会人はこれだけいるのだ。即時成立で問題なし。婚約契約書は締結できた」
そこで拍手が起き、心臓がドクンと大きく反応する。
もう、後戻りはできない。
「慣例に倣い、一ヵ月以内に婚約式を行うことになる。ちょうどバカンスシーズンだ。王宮の庭園を使い、婚約式を行うといい。すべての手配は侍従長が行うから、領地へ戻っても構わないぞ。二人は衣装を揃え、当日に備えればいい」
王族の婚約者で良かったと思うのは、婚約にまつわるすべてが国の行事扱いになる点だ。そうなると失敗は許されない。すべての手配は侍従長を中心にしたプロフェッショナルチームが組まれ、当事者は基本、確認のみで済む。招待客についてもリスト化されたものを見て、過不足を指示するだけで済むのだ。これは結婚式でも同じ。とはいえその分、王太子妃教育に追われるわけで、決してすべて楽勝というわけではない。
それでも前世では、結婚式の準備で新郎新婦が喧嘩になることも多いと聞いていたから……。プロがサポートし、取り仕切ってくれることは本当に心強い。
こうして来月、アレクと私の婚約式が、王宮の庭園を使い、行われることも決定した。
お読みいただき、ありがとうございます!
【お知らせ】完結!一気読みできます。
悪役令嬢やヒロインではなく、中ボスに転生!?
『周回に登場する中ボス(地味過ぎ!)魔女に転生!
~乙女ゲーなのに恋とは無縁と思いきや!?~ 』
https://ncode.syosetu.com/n1379jg/
溺愛あり、スリリングあり、キュンあり、もふもふもあり。
王道王子様、美形の騎士様、インテリ男子、ワイルドな謎の男まで、魅力的な男性キャラが揃っています。あなたの好みはどの攻略対象!?
ぜひお楽しみくださいませ~☆彡
↑ ↑ ↑
ページ下部に目次ページへ遷移するリンクバナーがございます~