52話:彼の考える未来
アレクと話そう。
そう思ったが、フロアにアレクの姿を見つけることができない。あれだけの輝くような純白の姿。見つけられないはずはない。
飲み物や軽食が用意された隣室にいるのかと見に行くが、そこにはいなかった。
そうなると……。
まだダンスがスタートしたばかり。
この状況でまさか。
そう思いながらテラスを見ると、いた!
カツカツとヒールの音がテラスのタイルに響くと、アレクが体を震わせ、こちらを見る。
少し離れた場所にいる護衛の騎士も私を見た。
「アレク王太子殿下!」
「クリスティ……。君だったのだね。フロアにいると、沢山の令嬢やマダムに声をかけられるから、ここに逃げてきたんだ。今日は、ダンスをする気分ではなかったから。でも見つかってしまったかと、思わず身構えてしまった。……クリスティ、時間はある? 話したいと思ったんだ」
「それは奇遇です! 私も殿下と話したいと思っていました」
するとアレクが少し不思議そうな顔になるが、すぐに「ああ、そうか。今日の主役は彼だから」と呟く。私がジュリアスと一緒にいると思ったのね、きっと。昨日の今日だから。でも主役はジュリアスで、彼は引っ張りだこ。だから私は一人なのだと理解した。そして手持ち無沙汰だから話したいと言い出した……とでも思っているのね。
でも違うのよ、アレク。
私はこれから……とても重要なことをあなたに話すのだから!
「殿下、こちらの椅子に座りましょう」
テラスに置かれたアイアン製の背もたれがついたベンチにアレクを導く。
二人で横並びになり、腰かけた。
今日も月は明るく、眼前の庭園に、月光が柔らかく降り注いでいる。
「クリスティ」「殿下」
まさかの同時に名前を呼び合っていた。
これには思わず顔を見合わせ、笑顔になる。
「殿下からどうぞ」
「ここはレディファーストだよ。クリスティから話して」
そうなるのがこの世界の文化。
私は深呼吸を一つすると、勇気を出し、話し始める。
「これから話すことは、殿下からすると、荒唐無稽に思えるかもしれません。にわかに信じられない……そう思うかもしれないです。でも私は嘘をつくつもりはありません。信じていただけるといいのですが……」
「クリスティ。そこまで言うのなら、君が真剣だというのが分かる。だから僕も真摯な気持ちで聞かせてもらうよ。信じたいという気持ちでね。ただ、公平ではありたいと思う。どうしても信じられない話だったら、そう伝える。だからまずは話してみて」
「ありがとうございます、殿下。公平でありたいと考えるのは、殿下の立場からして当然のこと。そのスタンスで構いません……では、聞いてください」
そこからは父親に話したように、子供の頃から何度となく見ている予知夢について話した。話している間、アレクは実に誠実な表情で相槌を打ち、次を促してくれる。おかげでスラスラと話すことができた。
途中まで、アレクは真面目な表情。でも後半になるつれ、顔色が青ざめる。
「その令嬢のことを、僕がクリスティを差し置いて好きになる……?」
アレクは碧眼を大きく見開き、絶句している。
やはり信じてもらえないかしら……。
だが……。
「主によるお告げや、天使が夢枕に立ったという話。この世界では、よく聞く話だ。クリスティが見た予知夢も、そういったことの一つだろう」
予知夢を信じてもらえた……!
「予知夢自体は信じる。だが予知夢の内容については、とても同意できない。そもそもクリスティは何も悪くないはずだ。悪いのは……その令嬢に目移りする僕だろう……。いや、待って欲しい。それこそ信じて欲しい。僕が心変わりするなんて……ああ、そうか。気持ち程移ろいやすいものはないと、クリスティは以前言っていたね」
そこでアレクは肩の力を抜いた。
「だからこそ婚約契約書では、婚約破棄できないものにする。……ごめん。この件はまだ答えが出ていなかったよね。婚約以前なのに、つい先走ってしまう」
アレクの気持ちに対する答えは今日、するつもりでいた。
でもそれは今、言うタイミングかしら……?
ううん。今ではない。
今はまず、アレクの話を聞こう。
「いずれにせよ、クリスティ。君は恐ろしい未来にならないよう、努力を続けてきた。その結果、予知夢とは違う世界になってきているのでは? 僕がクリスティを……そんな未来は来ないよう、変えられるはずだ」
「……!」
アレクが私の手をぎゅっと握った。
「未来は自分達が切り拓くものだと思う。そしてクリスティは、これまで一人でもがき苦しみ、それでも道を拓いて来た。心細く、不安だっただろう? 孤独だったと思う。でも大丈夫だ。これからは僕も支える。僕のこと、信じて。未来を変えるのではなく、二人で新しい未来を作ろう」
アレクの言葉は何て優しいの! 胸がジーンと温かくなる。
そして私は理解した。
想いを打ち明けるなら、今なのだと。
「ありがとうございます、殿下。……殿下が支えてくれるなら、恐ろしい未来も乗り越えられる気がしました」
「大丈夫。乗り越えよう」
アレクの笑顔が眩しい!
「はい。これからもずっと殿下のそばにいさせてください。……私もアレク王太子殿下のことが大好きです。未来を共に作りたいと思いました」
アレクは笑顔になるかと思ったら……。
固まっている!
夢なのか、現実なのか。
そんな表情をしている。
「殿下、現実です」
「……本当に、本当なのか、クリスティ?」
「はい。本当です!」
アレクは目を閉じ、自身の握りしめた手を胸に当て、大きく息を吐く。
「僕はね、クリスティ。君を諦めるつもりでいた。ジュリアス第二王子殿下のような男性がタイプだと言うのを聞いていたんだ。そして彼から想いを告げられたのなら、僕は……諦めるべきだと。それを今日、伝えるつもりでいた。でも予知夢の話を聞いて……」
そこでアレクは何度か深呼吸を繰り返す。
「クリスティが恐ろしい目に遭う未来にならないよう、二人で新たな未来を作ろうと言ったものの。そこに恋愛が介在しない可能性も考えていた。あくまでクリスティが命を散らさないで済む未来を作ることが、最優先と思って。だから今、クリスティが僕のことを」
「大好きですよ、殿下のことが!」
「クリスティ……! 抱きしめてもいい?」


















