50話:これこそが、私の本心
「もしアレク王太子殿下が魔性の女の手に落ちず、クリスティが予知夢で見たような未来にならなければ。クリスティは殿下と結ばれたいのかい?」
改めて父親に問われた私は――。
「はい。アレク王太子殿下と結ばれたいです。殿下のことが好きです」
心からそう答えていた。
その答えを聞いた父親は安堵し、そしてとても寂しそうな顔になる。
でもすぐに穏やかな表情に戻った。
「クリスティ。それが本心なのだな?」
私は力強く頷く。
「そうか。ちゃんと本心を父さんに話してくれて、ありがとう。クリスティが全てを打ち明けてくれたのは、父さんを信頼しているからだろう?」
「はい。予知夢のこともちゃんと聞いてくださり、ありがとうございます!」
すると父親は「当然だ」と再び私の頭を撫でた。
「クリスティ。好きということは、相手を信頼するのとイコールだと父さんは思う。信じることができない相手とは、うまくいかない。それは恋愛だけではない。仕事の場でも。友人としても」
それは確かにそうだ。信頼は人との関係性における基本だと思う。
「好きだと言うなら、信頼してみてはどうだ、アレク王太子殿下のことを。父さんに話してくれたことを殿下に聞かせてみるといい」
「それは……お父様に話した予知夢のことを……ですか?」
「そうだ。父さんを信じたように、アレク王太子殿下を信じ、話してみる。恐れる必要はない。殿下はクリスティのことが大好きなんだ。愛するクリスティの話を、笑ったり、冗談だろうと言ったりするとは思えない。……仮にそんな態度をとるようなら……」
父親の手が三度目で剣に伸びるので、またも慌ててその手を握る。
「お、お父様! 確かに殿下なら私の言葉に真剣に向き合ってくださると思います! 話してみます。明日の舞踏会で!」
こうして父親とのティータイムは無事終わった。
終わったけれど……。
私の瞼は腫れ、大変!
濡れタオルで冷やし、夕食の席に向かったが、デュークがあわあわしてしまう。
「ど、どーしたんだよ、クリスティ! まさか親子喧嘩か!?」
「その逆よ。お父様のおかげで迷いがふっ切れたの」
「へっ!? そうなのか? よく分からないが、悪いことは起きていないんだな?」
私はコクリと頷く。
ヒロインの攻略対象の中で、デュークは唯一、友達ポジションでいてくれる。
アレクにとっても未来の忠臣。
これからも仲良くしたい。
そんなことを思いながら、夕食を楽しみ、この日が終わった。
◇
翌日。
ジュリアスの歓迎舞踏会当日だ。
今日は日曜日だったので、剣術の練習はない。
アレクの様子が気にかかる。
ジュリアスの件で絶対に不安を抱えているだろうから。
早くアレクに会って話したいな。
アレクに会いに行こうとも思ったが、せっかくならこのドレスを着た姿で会いたい……。
そのドレスは最近、仕立てが終わり届けられたもの。
生地全体は、アレクの瞳のような澄んだ空色をしている。
ふわりと身頃とスカート全体に重ねられたチュールには、立体的に作られた小花が散らされ、さらに沢山のグリッターも飾られていた。バックリボンはグラデーションカラーになっており、後ろ姿もとっても素敵なのだ。
アレクがプレゼントしてくれたネックレスとイヤリングは勿論、ずっと大切にしている髪飾りと合わせても完璧。
やはりこのドレスとアクセサリーを身に着け、素敵な令嬢になった私でアレクに会いたい。
好きな人のためにオシャレをしたい。オシャレした自分を見せたい。
これぞ乙女心というもの。
ということでこの日は時間が経つのが遅くて、遅くて……。
でもいざドレスに着替え始めると、緊張してくる。
緊張して、髪型からお化粧まで、ちゃんと素晴らしくできているか気になってしまう。
「お嬢様、不思議です。先日は濃いお化粧をしようとしたり、驚くようなデザインのドレスを着てみたりしたかと思えば。今日はなんだかそわそわされ、仕上がりをしきりと気にされている……。大丈夫ですよ、完璧です!」
メイドが思わず指摘してしまうくらい、私は……挙動不審になっていたようだ。
ともかく用意は整った。
招待客を迎えるため、エントランスホールへ行こう!
晩餐会ではアレクが一番乗りで来てくれた。
今回も一番乗りで来てくれるかしら?
期待しながら待つが、最初にやって来たのはジュリアスだ。
彼のための舞踏会。一番乗りがジュリアスなのも当然だった。
ダークブルーのテールコート姿のジュリアスはその白銀色の瞳で私を見て、クールな顔に微笑を浮かべる。アレクに予知夢の件を話し、そして自分の気持ちを伝えるつもりでいた。
つまりジュリアスにはその気持ちには応えられないということを伝えなければならなかった。
初対面で思いっきりあなたが好みです!アピールをしていたのに。実はアレクが好きだったのです……なんて伝えたら、軽蔑されるだろうな。
でもそれでいいのかもしれない。軽蔑した方が、ジュリアス自身も未練が残らず、次に進めるだろう。
次……。ジュリアスは次に誰を好きになるのかしら?
そんなことを思っている間にも続々招待客がやってくる。でもアレクの姿が見えない。
もしや……あまりにもショックで今日は来ないとか……?
お読みいただき、ありがとうございます!
今週末は三連休!
読者様の日頃の応援に感謝し、増量更新です☆彡
いつもありがとうございます(*´꒳`*)
そして!
【新作公開】
『森でおじいさんを拾った魔女です
~ここからどうやって溺愛展開に!?~』
https://ncode.syosetu.com/n4187jj/
ページ下部にあらすじ付きリンクバナーを設置しました!
ぜひぜひ遊びに来てください☆彡