45話:チャンスを掴まないと!
晩餐会の座席の配置を見て、ようやく悟る。
父親は……意図的にジュリアスを私から遠ざけようとしていると思う!
なぜ!?と思ったが、初対面となった挨拶の時、ジュリアスが好みのタイプであると匂わせる発言をしている。そこで父親は気付いた。父親だけではなく、アレクも。
急にアレクが黒髪長髪のかつらをかぶったのも、父親が留守番をさせたのも、私のあの発言が原因なのだと今さら理解した。
そうなるとアレクのあの不可解な言動も、私の言う「私はとらえどころがない方が、どこか身勝手な猫のようなタイプが好きです」を実践した結果なのだろう。だがアレクは素直で純真なタイプ。しかも猫というより、忠犬。無理をした結果、本来の気質と合わない訳の分からない発言につながったのだと思う。
ジュリアスを王都へ追い払うことばかり考え、アレクの恋心を置いてきぼりにしていた。
私から「イエス」が欲しいのだ、アレクは。
好かれようと頑張ってくれたのだろう。
その事実には胸がキュンとしてしまうが。
キュンキュンしている場合ではない。
なんとしてもこの晩餐会でジュリアスには私に幻滅してもらい、王都へ戻ることを決意してもらわないと!
ということで。
晩餐会自体はもう料理を楽しみ、周囲に座る招待客との社交にいそしむことだけを考えた。
勝負は食後のまったりタイムだ!
食後の紅茶と焼き菓子が終わると、まったりタイムへ突入する。
隣室へ移動してお酒やシガーを楽しみましょうという紳士たち。
令息は娯楽。つまりダーツやビリヤードを楽しむ。
令嬢やマダムは、さらに紅茶やさっぱりとフルーツをいただく。
辺境伯である父親は地元の名士に囲まれ、お酒の席へ。王太子であるアレクも令息に囲まれている。ジュリアスは……令息に囲まれていると思ったら、部屋を出た。
え、まさかもう帰るの!?
いや、それはないでしょう!
「クリスティ、どうしたの?」
「! お母様、失礼しました。レストルームをずっと我慢していて……」
「まあ、それは大変。急いで。でも走るのはダメよ」
急ぐべきだが、走ってはならない。
難しい注文です。
しかし。
本当にレストルームに行きたいわけではないので、早歩きで廊下へ向かう。
あ、あれっ。
ジュリアスは!?
もういない!
廊下の右を行けば、エントランスホールへ行ける。
左へ行けばレストルームがあった。
まさかまだ離れへ戻るはずはない。
ならばレストルームかしら?
レストルームの出入口から少し離れた場所に、ソファが置かれていた。
そこに座り、一旦様子見。
レストルームから出てきてくれることに期待だ。
そう思い、足早に歩いていくと――。
左手を掴まれたと思ったら、抱き寄せられている。
階段の踊り場で私を抱き寄せたのは……ジュリアス!
「ようやく二人きりになれましたね。もう邪魔をされたくないから、庭園のガゼボにでも行きましょうか。今日は満月で外は明るいですから」
ジュリアスはクールなイメージが強いので、このお誘いには正直……ビックリ!
どうしました……?
でも、チャンスであることに変りない。
エスコートしてもらい、歩き出す。
「あ、庭園のガゼボの場所、分かりますか?」
「分かりますよ。離れに滞在してから毎晩、散歩していましたから」
「! 夜の庭園を、ですか?」
「ええ。クリスティ嬢の部屋どこなのかと探しながら」
「?」
重要なことなので二度目となりますが。
ジュリアスはクールなイメージが強い。
自身からヒロイン……ゲームのプレイヤーに対して働きかけることは、ほぼなかったのに。
この世界のジュリアスはなんだか違う。
違う。
でも……それを言えば、私の母親だって早死にしていないのだ。父親は私を溺愛している。そしてアレクと私は婚約していない。
いろいろ異例ずくめ。ジュリアスの性格がゲームの設定と違うのも……仕方ないのかもしれない。とりあえずクールではない……だけだろう。
「クリスティ嬢は牧場に行かず、留守番されていた日。楽しく過ごすことはできましたか?」
「それは……そうですね。好きなスイーツもあり、読みたかった本もありましたから」
「それは良かったですね。私はクリスティ嬢がどうしているのかと、気にかかっていました」
やはりおかしい。
ゲーム画面の進行と全然違う。
建物を出て、花壇の間にある小道を進みながら、考える。
これは王都で、ヒロインとの間に何かあったのかしら?
気になるけれど、「ヒロインと何かありました?」なんて、いきなり聞くことはできない。
ならば当たり障りなく……。
「ジュリアス第二王子殿下は、犬と猫ではどちらが好きですか?」
「犬と猫、ですか? そうですね……。狩りをするので、子供の頃から犬には慣れ親しんでいます。猫は母親が飼っていたので、可愛がっていましたよ。それぞれ良い所があり、犬も猫も私は気に入っていますよ」
ジュリアスと言えば、断然猫派だったのに。
そこでガゼボに到着した。
アイアン製の二脚の椅子とテーブルが置かれている。
ジュリアスはふわりとハンカチを椅子に敷き、座るように勧めてくれた。
「クリスティ嬢は犬と猫、どちらがお好きなのですか?」
お互いに椅子に座ると、ジュリアスが私に尋ねる。
「私は……猫が好きですが、従順な犬タイプの方も嫌いではないです」
するとジュリアスはクスクス笑い、こう指摘する。
お読みいただき、ありがとうございます!
説明すると長くなるのですが
システムのバグでこちらに別作品の最新話が数分出てしまいました。
魚拓もとりバグの証拠もあり、いろいろ書きたくなりますが
ともかく驚かせてしまった読者様、ごめんなさい。