43話:え、まさかの私だけ……
ジュリアスを歓迎するため、大勢の招待客を呼んでの晩餐会や舞踏会は日を追って開催することになっている。旅の疲れもあるだろうから、数日置いてからの開催だ。
だがジュリアスは我が家の離れに滞在している。
そうなるとこの日の昼食は勿論、夕食も、ジュリアスと共に摂ることになるのだ。
これは好きです!アピールをする絶好の機会。
そう思ったのに!
昼食も夕食も、メンバーは同じ。
ちなみにアレクは昼食後、一旦別荘に戻り、わざわざ着替えて夕食へ参加している。
ともかくメンバーは同じならアピールできるかというと、それができない!
問題は座席!
父親、母親、私が横並びで座り、対面に……。
ジュリアス、アレク、デュークが並んだ。
こうなると、ジュリアスに話しかけにくい!
しかも両親とジュリアスが話し、私はアレクとデュークと話す。
そんな構図が完全に出来上がってしまっている。
これでは好きです!アピールもできない。
しかもなんだかアレクが変なのだ。
それはこんな風に。
デュークが父親からの手紙で聞いた話として、こんなことを教えてくれた。
「王都では、三人の騎士の珍道中を面白おかしく見せる大衆演劇が大人気だって」
「そうなんですね。脚本は誰ですか? 王都で人気の公演は、脚本の使用料を払い、ここアイゼン辺境伯で上演することもあるんです。ここには大勢の俳優さんも住んでいるので」
「へえ……それは知らなかったな。クリスティはそういう公演をよく観に行くの?」
アレクがニコニコと尋ねたので、私はすぐに応じる。
「巡業で王都から劇団が来てくれることも多いですが、それではタイムラグがあります。王都でさんざん上演した後にくるので、鮮度が落ちているというか。よって領地に住む俳優が演じる作品で、王都の人気作を観ることが多かったです。今も時間がある時に観ていますよ。もしかしてアレク王太子殿下は興味がありますか?」
「そうだね。興味……あ、いや、そうだね。どうだろう。そこまでは……」
「そうですか。ではデュークはどう? 王都では既に観たかもしれないけど、現地の俳優が演じる舞台。観たい?」
するとデュークはスペアリブを食べる手を止め、答える。
「こう見えて演劇は好きなんだ。観に行くか、クリスティ?」
「そうね。新聞で公演を確認してみるわ」
「コホン」
咳払いをするアレクをデュークと私が見ると。
「二人がどうしてもと言うなら、僕も観に行ってもいいかな」
「そんな。殿下を無理させるわけにはいかないので、大丈夫です」
「そうですよ、殿下。無理しないでください」
「! な……もしかしてクリスティとデュークは、二人きりで観劇したいの!?」
「「?????」」
アレクのこんな感じの不可解な発言はその後も続き、その度にデュークと私は首を傾げることになる。
以前はデュークを牽制するため、饒舌になることがあった。今は何なのかしら?
何というか天邪鬼?
ジュリアスには好きです!アピールができない上に、アレクはなんだか素直ではなくなるし、一体どうしたのかしら?
そう思っていたら……。
翌朝。
アレクとデュークはいつも通り、父親から剣術の練習を受けていた。そこに興味を持ったらしいジュリアスが加わった。その結果。朝食の席にジュリアスが加わる。だが相変わらずの席順のため、私はジュリアスとは会話ができない!
こうなったら、ジュリアスをティータイムに招待したり、なんなら観光案内を買って出たりしようかと思ったら……。
「昨晩、ぐっすり寝たおかげで、旅の疲れはとれました。今日は早速、アイゼン辺境伯領をいろいろ見て回りたいのですが」
ジュリアスが自らこう言ってくれたのだ。名乗りを上げようと思った。
「そうだと思い、今日は休みを取っています。まずは競走馬がいる牧場にご案内しましょう。妻と共に。クリスティは留守番を頼むよ」
「え……」
私を溺愛する父親なら、絶対に同行させると思ったのに!
まさか留守番を頼まれるなんて……。
「アレク王太子殿下も一緒に来られますか?」
ニコニコと父親が尋ねると、アレクは「今日は予定があるので遠慮させていただきます。お誘い、ありがとうございます」と微笑む。
「ではデュークはどうする?」
「自分は……」
そこでチラッと私を見る。
私が留守番なのに、自分が同行してもいいのかとデュークは思っているのだろう。
「クリスティは子供ではないから、一人でも留守番はできる。そうだろう、クリスティ?」
「は、はい。お父様……」
「クリスティの留守番が楽しくなるように、メーベリーのチョコレートとマダムポワールのピーチのシャルロットケーキをホールで用意しよう。後は母さんが王都から取り寄せた小説の最新版も部屋に届けよう」
これには「ありがとうございます、お父様! 留守番、おまかせください!」とついキリッと応じてしまう。メーベリーはアイゼン辺境伯領を代表するチョコレート専門店で、王家にも毎年商品を献上している。とても美味しいのだけど、人気店でなかなか食べられない。家名を出せば簡単に手に入るが、それはズルをしているみたいに感じてしまう。よってちゃんと行列に並び、いつも買っていた。それが行列に並ばずに食べられるなんて!
マダムポワールのピーチのシャルロットケーキ! これも絶品。こちらもこの辺境伯領を代表する人気店だ。シャルロットケーキを飾るフルーツは、季節により、その種類は変わる。メロンだったり、ストロベリーだったり、洋ナシだったり。とにかくどれであっても大変美味しい。できればホールで食べたいと思っていた。
さらに小説の最新版!
私と母親には、共通のお気に入りのロマンス小説があり、一緒に楽しんでいた。そのロマンス小説は、待てば領地の書店にも入荷される。しかし、とにかく遅い。いち早く続きを読みたいので、毎度王都の書店に連絡をして、お取り寄せをしているのだけど……。
まさか今回は既に手に入れてくれていたなんて!
もう美味しいスイートを楽しみ、読書できれば……って。そうではない! 本当はジュリアスに好きです!アピールをしないといけないのに……!
だが仕方ない。今日は夕食の時間まで、両親とジュリアスは外出なのだから!






















































