41話:し、しまった、どうしたらいいの!?
マンチェイス国第二王子のジュリアス・ハリー・ウィンフィールド。
“花恋”のヒロインの攻略対象。
黒髪で襟足が少し長い。やや左よりでツーブロック分けされた前髪。
意志の強さを感じさせる眉に、高い鼻。
涼し気な珍しい白銀色の瞳に、形のいい唇。
片耳だけ小ぶりの黄金の二連リングのピアスをつけているが、これは王族を示すもの。リングが二連なのは第二王子を示している。
アレクと同じ王子でも、ジュリアスはミステリアスで大人っぽい。
アレクが子犬タイプなら、ジュリアスは猫タイプ。
こちらに興味がなさそうと思い、相手にしないとデレてくる。しかも猛烈に。
このギャップにメロメロにされるプレイヤーが多かった。
そのジュリアスが……。
め、目の前にいるっ!
終業式から五日後。
きっちりとアイゼン辺境伯領にジュリアスがやって来た……!
離れのエントランスには両親、私に加え、デューク、そしてアレクがいる。
アレクは王太子という立場から、ジュリアスを歓迎するためにこの場に来ていたのだけど……。
夏空のようなターコイズブルーのフロックコート。
タイに飾られた宝飾品とカフスボタンは、アメシスト。
多分、私の瞳を意識してくれている……!
王道の王子様の甘いマスク、風に揺れるサラサラのブロンド。
花恋の不動のエース、絶対人気のアレクがそこにいる!
真夏の太陽のような元気なレッドオレンジ色のフロックコート。
宝飾品はゴールドで統一。
赤髪のワイルドヘアで、レッドブラウンの瞳のデュークに、ピッタリの装い。
明るくからっとした性格で、少しがさつで不良っぽいが剣術の腕は確か。
花恋のワイルド男子代表、友達みたいな恋人候補に選ばれるデュークもここにいる!
真夏の星空のような紺碧色のフロックコート。
繊細な銀細工の宝飾品を身に着け、その姿はなんだか神秘的。
スラリとした長身で、見るからに涼し気な表情をしている。
少し澄ました様子で挨拶。
花恋のクール男子、でもデレると激甘美青年のジュリアスが登場した。
えーと、今から、花恋のスチール撮影だったりします?
悪役令嬢は……「はーい、ここにいます!」
ちなみに今日の私は、白のモスリンのドレスで、淡い紫の薔薇がプリントされています!
ヒロインは……「遅刻? ブッチ?」
ではヒロイン抜きで、撮影始めましょう~!
……そんなわけがない。
どうなっているんですか!?
どうしてこうなりました?
え、私のせいです?
私が王都へ行かないから、みんな……。
「クリスティ、どうしたんだ!? 顔色が真っ青ではないか! これまで一度も失神したことがないのに。今にも倒れそうだ!」
父親の声にハッとした瞬間。
現実逃避したくなった私は、ここで気絶したフリでもしようとした。
が。
「「「クリスティ」」」
「アイゼン辺境伯令嬢!」
右側からアレクが私を支えようとしている。
背中から私を支えるのは父親。
左側からはデュークが支えてくれている。
さらにジュリアスが私の右腕を掴んでいた……!
し、しまった、どうしたらいいの!?
そんな、全員瞬発力と行動力が良すぎませんか!?
「クリスティ、夏の暑さがその華奢な体には厳しかったのだね」
アレクが碧眼をうるっとさせている。
「クリスティ、しっかりするんだ。部屋で休もう」
父親が私を気遣う声が聞こえた。
「氷菓でも用意してもらうか、クリスティ?」
デュークも心配してくれている。
「私を迎えに来たために、申し訳ないことをしました」
ジュリアスが謝罪の言葉を口にした。
そして四人で同時に「「「「部屋に運びます!」」」と声を揃える。
なぜか四人は自身が運ぶと譲らず、もうあちこちに引っ張られ、気絶どころではない。
というか、私、悪役令嬢ですからー!
どーしてこんな“取り合い”みたいになっています!?
意味が、意味が分かりませんからー!
「お騒がせしました。立ち眩みがしたようですが、もう大丈夫です。ご挨拶の途中でしたよね。失礼しました」
もうこうするしかなかった。
すると父親が真っ先に声をあげる。
「ウィンフィールド第二王子殿下。娘はこう言っていますが、またいつ、ふらっとなるか分かりません。応接室で挨拶の続きを行うのでもよろしいでしょうか?」
「ええ、勿論です。ぜひそうしましょう」
こうして応接室へ移動することになった。
その際、感じるアレクの「クリスティ、僕が君を支え、エスコートしたい!」オーラ。
だが父親の方が先に私の手を取り、肩を支え歩き出している。
溺愛お父様VS婚約したい王子様。
勝者はお父様……。
ではない。
気絶してみる=現実逃避は通用しないので、ともかくこの異常事態を乗り切るしかない。
まず、アレクやデュークと違い、ジュリアスは王立ミルトン学園に在籍しているのだ。アイゼン辺境伯領にいるのは、長くともバカンスシーズンのみ。大丈夫。
そして私は前世花恋のゲーム知識がある。
ジュリアスの好感度がだだ下がりになる方法を私は知っているのだ!
だから問題ない。
ヒロインの攻略対象であるジュリアスには早々に王都に戻ってもらおう!