39話:お父様、やり過ぎだと思いまーす!!
デュークにアレンと私の監視をさせるなんて。
さすがにお父様、やり過ぎだと思いまーす!
ということでズバリ指摘した。すると父親は、その整った顔に汗を浮かべ、弁明する。
「クリスティへの気持ちを表明して以降、殿下がクリスティを見る目が……。あんなに情熱的だと殿下が暴走するのではと心配になってしまい……」
いえいえ、先に暴走したのはお父様ですよー!
「すまなかった。だが実際、デュークが邪魔する必要がある事態が発生していたのでは?」
父親の目がキラーンと光る。
「誤解です、お父様!」
むしろ追い詰められたアレクは、私と二人で話したいと必死になり、逆効果だったと思うと説明。それを聞いた父親は……。
「そうか」
まるで某カリスマアニメの総司令のように、顔の前で手を組んでいる。
執務室にいて、執務机に父親は座っていた。
なんとなく雰囲気もそれっぽい。
白い手袋つけてくれないかな。
あと眼鏡も……と、前世のオタク気質が疼く。
そうではなく!
デュークに監視をやらせるのは止めてくださいとお願いする。
父親は口をへの字にしているが、もう私にバレているのだ。
渋々、「分かった」と応じた。
話ついでと、気になる疑問も尋ねてみた。
「お父様はデューク様のことを、婿養子にと考えなかったのですか?」
「ああ、その件か」と、父親は腕組みをして、椅子の背もたれに身を預ける。
「考えた。提案もしている。ガイゼルにな。だが婿養子の件を聞いたデュークが、それなら殿下の剣術相手も含め、全て断ると言い出した」
「そうなのですか!?」
「ああ。理由は『クリスティの意志が尊重されていると思えないから』だそうだ」
そうか。この段階ではまだデュークは、アレクが私を好きなことを知らなかったのね。密約の件は後からデュークに知らされたと。だから「殿下の想い人とは結婚できない」ではなく「私の意志の尊重」になったのね。
「跡継ぎがいないから、婿養子を迎える。その必要性は理解できるが、それはクリスティの合意あってのこととデュークは考えた。つまり何も知らないクリスティの婿養子に収まるつもりはないということだった。これはなかなか情に厚い。わたしとしてはデュークの意志を確認し、それからクリスティに話してもと思っていた。だがデュークはまずはクリスティを優先するべきと考えたのだ。わたしの跡継ぎに相応しいと思ったよ」
それは確かに立派な心掛けだ。この世界、男社会だからなおのこと。
だがしかし。
デュークを婿養子にと考えたということは、父親はアレクのことをどう思っているのかしら……? だってアレクの私への気持ちを知った上で、デュークに婿養子の件を提案しているのだから。
そこを指摘すると、父親はなんだか居心地が悪そうにしている。そしてなかなか口を割らなかったが……。
「……アレク王太子殿下に関しては、非の打ち所がない。剣術の腕もめきめき上達している。呑み込みも早い。何せ基礎体力ができている。王都にいる時に、相当鍛えていたのだろうな。普通、彼に好意を寄せられていると知れば、多くの貴族が大喜びだろう。だが……」
そこで父親は少年のように頬を赤くする。
「クリスティは幼い頃、言っていただろう。サマーフェスティバルに行き、氷菓を食べた時。『ずっと、ずっとお父様のそばにいるね』と。そして父さんも『ずっと父さんのそばにいるといい』と応じた。だが王太子の婚約者になったら、王都に行くことになる」
父親の濃紺の瞳がうるうるしている……!
「クリスティがいないアイゼン辺境伯なんて、グレービーソースがないターキーみたいなものだ!」
お父様、分かりやすいような、分かりにくい例えです!
それはつまり、のり弁なのに「のり」がない、感じかしら?
ともかく分かったことは、父親は本気で私を溺愛している。
そしてあのサマーフェスティバルの日の出来事が、父親の中で「氷菓の誓い」になっているようだ。
アレクを非の打ち所がない王太子であると認めているが、同時に自分の手元から娘を奪う男認定されている。デュークだったら娘婿になり、私をこの地から連れ出さない。だからアレクの気持ちを知りつつも、デュークの婿養子を画策したのね。
というか。
その時点ではきっと、ガイゼル騎士団長にもデュークにも、アレクの私への好意を話していないのよね……? 二人とも王家に忠誠を誓っている。アレクの邪魔をするなど、反対のはずだ。
その点を父親に確認してみると。
「密約……つまりは殿下とクリスティの見守りの件は、デュークがアイゼン辺境伯領に来ることが決まってから話した。どうも殿下が、クリスティに好意を持ってくれている。しかしまだ、正式に王家から婚約者としての打診が来ているわけではない。だがいかんせん、若い二人。気持ちが溢れ、過ちがあってはならない。王家の名誉にも関わる。よって見守りも頼みたいと話したら快諾だった」
父親はなかなかの策士!
その言い方なら、王家に忠誠を誓うガイゼル騎士団長とデュークでも「分かった!」としか返事ができないと思う。何せ「王家の名誉にも関わる」ことなのだし、年齢的に気持ちが高まるというのも説得力があった。