32話:野生児と完全無欠の王太子
みんなで釣った魚を同行した調理人が次々に料理してくれる。
父親と母親と私の三人で釣りに行く時。
従者や護衛は連れて行く。
でもさすがに調理人は同行させない。
騎士でもある父親は野営の経験もあるので、火をおこすこともできたし、魚を焼くこともできた。でも今回はアレクがいるのだ。つまり王太子もいるので、きちんと調理人が作ったものを食べていただくとなったわけだ。
よって塩をつけて焚火で焼く……ものもあるが、アレク用にフライパンにバターを溶かし、しっかり火を通して調理をしている。つまり川魚ソテーを作ってくれていた。
こうして天幕の下、従者たちが用意してくれたテーブルセットに着席し、昼食がスタートする。アレクと母親はソテーした魚、父親とデュークと私は塩焼きした魚。あとは皆で食べる魚介のスープ、そして火で炙って程よく焦げ目のついた白パンだ。
「いただきます!」と食事がスタート。
骨など気にせず豪快に食べるデュークに、父親は大喜び。私も父親も小骨など気にせずパクパク。一方のアレクと母親は、ナイフとフォークを使い、上品にソテーした魚を食べていたが……。
「僕も塩焼きした魚を食べてみたいのですが……」
「殿下、塩焼きの魚は骨抜きをしていません。主人も娘も、昔からこの食べ方に慣れていますが、殿下は違います。喉に骨が刺さると大変です」
アレクが残念そうにデュークや私を見るが、母親が言う通りである。
あくまでアレクは王太子なのだ。
遭難でもしない限り、無理に焚火で塩焼きした魚を食べる必要はない。
ただ、デュークが本当に美味しそうに食べるから……。
その姿を見て、アレクが試してみたいと思った気持ちはよく分かる。
だがそこにプリンが登場!
プリンもこの場で作ったのだから、デュークとアレクは驚いている。オーブンがなくても鍋とプリンを入れる容器があり、材料が揃えば、アウトドアでもプリンは作れた。
ということで食後の紅茶とプリンを楽しみ、ランチは終了。
すると……。
「せっかくなので森の散歩もしたいです」とデューク。これはアレクも「僕も散歩に賛成です!」と応じる。そこで私がデュークとアレクを案内することになった。
この辺りの森は、幼い頃に何度も足を運んでいるので、私にとっては庭みたいなもの。それでも道が整備されているわけではない。ランドマークとなる木には、ちゃんと印を残しながら進む。
アレクを護衛する騎士は、距離を取りながらついて来ている。彼らがいるなら印を残さなくても大丈夫かもしれないと思いつつも、念のためだ。
「クリスティは森に慣れているんだな。そうやって印を入れるのも、迷子にならないためだろう?」
デュークが感心しながら尋ねた。
「自分達が迷子にならないのもそうですが、もしもの時、この印があれば、捜索隊に見つけてもらいやすくなります」
「ああ、そういうことか。言われてみれば、騎士の本にも確かにそんなことが書いてあったな」
「アレク王太子殿下も、その印を辿り、私の父親を見つけてくださったんです」
魚の塩焼きを食べられず、少し元気がないアレク。
散歩に出発してからも、言葉少なめだった。そこでアレクに話を振ったのだ。
アレクはそういう気遣いに敏感だから、すぐにふわっと優しい笑顔になり、あの父親が濁流に落ちた事件の話を始める。デュークは驚きながら、アレクの話を聞いていたが。
「あっ!」
デュークが突然立ち止まり、アレクと私を見る。
何かと思うと、デュークは視線を斜め右前方へ向けた。
そこにはワイルドチェリーが実っている木があった。
「なあ、クリスティ。このチェリー食べられるよな?」
「ええ、食べられますよ! 肉厚で食べ応えがあり、熟れているものは甘くて美味しいです」
「オッケー! ならデザートだ!」
そう言うとデュークは走りながら靴を脱ぎ、靴下を脱ぎ、木に登っていく。
なんとも腕白な行動に驚くが、なんだか自分の子供時代を思い出す。
「気を付けてくださいね、デューク様!」
「おう、任せとけって!」
私も……本当は登りたい。
でもさすがにもう子供ではなかった。
それにアレクも隣にいる。
チラッと横にいるアレクを見ると、彼はワイルドチェリーが実る木を眺めながら、こんなことを言う。
「狩りは何度もしたことがある。釣りもしたことがあった。でもこんな風に木に登ることは、怪我をすると子供の頃から止められていた。魚も骨を気にするように言われている。でもクリスティもデュークも自然と一体な感じで、羨ましいな。二人とも塩焼きの魚を美味しそうに食べていたよね。木登りだって……クリスティもできるんだろう?」
アレクが金髪のサラサラの前髪を揺らし、こちらに碧い瞳を向ける。
さっきまで釣りをしていた湖よりも、さらに澄んで見える美しい碧い瞳。
「木登りは……はい、お転婆と言われてしまいそうですが、できます。塩焼きの魚も子供の頃から父親に食べ方を習い、コツを掴んでいると言うか……。デューク様はその王都暮らしを本当にしているのかと思うくらい、野生児で、適応力があるというか。こういう自然豊かな場所が、合っている気がします。アレク王太子殿下はお立場がありますから……」
「……似ているよね、気質が。デュークとクリスティは」
それは否めない。アレクと同じように、私自身も感じていたから。デュークの野生児な部分と似た気質が自分にもあると。
「僕だけ、取り残されている気分になってしまうな」
「そんな……!」
「それに師匠はデュークのことを気に入っている。まるで息子のように。僕に対する師匠の態度は、臣下に対する礼の域を出ない気がする。……ちょっと寂しいな」
風が吹き抜け、陽射しが射し込み、アレクのブロンドを輝かせる。
とても悲しそうな横顔にドキッとしてしまう。
完全無欠なヒロインの攻略対象のアレクが、こんな表情をするなんて!
「殿下……」
「おーい! 大量に手に入ったぞ!」
沢山のワイルドチェリーを手に入れたデュークが戻って来た。
お読みいただき、ありがとうございます!
読者様の気持ちになり、なんとか更新を増やせないか、考えに考えました。
毎日増量は……原稿が追い付かない~
ならば週末だけでも増量更新を目標にしよう!
そう思いました。
出来る限りで頑張ります!
応援いただけると嬉しいです(*´꒳`*)