30話:お父様、ありがとうございます!
デューク・シモン・カイザー。
ミルトン王立騎士団 第一騎士団ガイゼル・ジーク・カイザー団長の次男坊。
赤髪のワイルドヘアで、珍しいレッドブラウンの瞳をしている。
父親であるガイゼル卿に鍛えられただけあり、引き締まった騎士を思わせる体躯をしていた。明るくからっとした性格で、少しがさつで不良っぽいが、剣術の腕は――。
「よし。いいです、殿下、踏み込んでください!」
「へへん。そうは行きませんよ、王太子殿下っと!」
「くっ! デューク、逃げるな!」
アレクとデュークが手合わせをしながら、父親が剣術指導をしている。
デュークは身軽に動き、アレクの攻撃を見事に避けてしまう。
父親がチャンスを見い出し、アレクに指示を出すが、デュークはすぐにその動きを見切ってしまうのだ。結果、「逃げるな!」につながっている。
だが逃げるデュークを追うアレクはより動きが俊敏になっていた。さらに素早く動作を転換することもできるようになっている。剣の刃と刃を交えなくても、不思議と訓練になっていた。
父親は「やれ、やれ」という顔をしているが、目は笑っている。
これはこれで良いのだろう。
剣術の朝練が終わると、朝食になる。
シルバーホワイトのセットアップに着替えた父親。
シトラス色のドレスの母親。
白の半袖シャツ、濃紺に白のチェック柄のズボンという制服姿のアレクとデューク。
白の半袖ブラウス、濃紺に白のチェック柄のハイウエストロングスカートの私。
一人人数が増えただけなのに、朝食の席は実ににぎやかになる。
理由は……。
「アイゼン辺境伯夫人、今日も卵が新鮮で美味しいですね! それにこの肉厚な自家製ベーコン! それに朝から鹿肉が食べられるなんて、王都では夢のまた夢! しかも肉食べ放題なんて! 朝練頑張って腹ペコなので、本当に嬉しいです。ありがとうございます!」
「ふふ。デューク様は食欲旺盛ね。ゆで卵、お代わりは?」
「お願いします!」
デュークはよく話し、よく食べる。
王都ではここに比べ、森も少ないし、手に入る肉は限られていた。家畜として飼育されている鶏肉、豚肉、牛肉が主流。ジビエとされる鹿肉やイノシシ肉などは、王都ではご馳走扱い。でもアイゼン辺境伯領は領地も広く、森と山が多かった。害獣にならないよう、狩りは日常的に行われ、鹿肉やイノシシ肉は頻繁に手に入る。デュークはそれらの肉料理を喜んで食べていた。
「そう言えば昨日、庭で尻尾が太くて、ちょこまか動く動物を見たんですけど、あれは」
「ああ、それはきっとアライグマだ。時々、庭園に迷い込んでくる。アライグマは雑食で、庭園を荒らすので困ってしまう」
「へぇー……。なんだか可愛らしいかったですが」
父親は笑いながら、アライグマが見た目によらず狂暴であることなどをデュークに話す。するとデュークはそれを受け、他に庭にどんな動物が現れるのかを尋ねる。父親は嬉しそうにそれ答え……。
デュークのトークは、アレクが話す隙を与えない。アレクもそこに割って入ることなく、ニコニコと聞いている。するとデュークは嬉々として話し、食べ続けた。
一方の父親は、この土地に興味を持ち、この地の食べ物に満足しているデュークを見て、とても嬉しそうだ。
「さすがガイゼルの息子。旺盛な食欲だ。きっと今以上に立派な体になるだろう。そうだ、デューク。今度の休み、釣りにでも行くか?」
「いいですね! 自分、釣りの経験なんてないですが、教えていただけますか!?」
「勿論だとも。……殿下もいかがですか?」
「ええ、喜んで」
なんだか父親は、デュークを自身の息子のように接している。
ガイゼルの息子=ナイス・ガイというフィルターが存在しているように思えた。そしてそれはバッチリ父親に機能しているような。
そんなにぎやかな朝食の後。
当然、登校はデュークも一緒だ。
つまりアレクの馬車に同乗する。
そうなった経緯はこんな感じだ。
「アレク王太子殿下。デュークのことも一緒に馬車に乗せていただいてよいでしょうか。デュークの腕であれば、護衛の騎士と変わりなく動けますから」
「ええ、勿論ですよ。デュークの腕はよく分かっています。僕の護衛騎士の代わりで、デュークに同乗してもらいましょう」
こうして登校時の馬車は、アレク、デューク、私と侍女の四人となった。
私としては目の前に、断頭台と監獄が着席しているようなものなのだ。
登校時間は悪夢になると思ったら……。
そんなことはなかった!
むしろ、ラッキー……です?
なぜならデュークがおしゃべりだったから!
毎朝の登校時間。私はひたすらアイゼン辺境伯領について語り続けた。おそらくもう本が数冊できるぐらい。話すことは尽きないが、毎朝のマシンガントークは疲れる。一時限目に睡魔に襲われるのは、この頑張り過ぎているマシガントークのせいではないかと思うぐらいだ。
だがデュークのおかげで私は、ただニコニコ聞いていればいいのだ!
しかもデュークは体力がある。どれだけ話そうと疲れたそぶりを見せない。
なんて楽なのだろう!
ヒロインの攻略対象であるデュークの滞在を認めた父親に、恨み節になりかけた。でもそんなことはなかった。
お父様、ありがとうございます!だ。
だが、この時の私は気付いていない。
このデュークの登場により、嵐が吹き荒れることを……。
お読みいただき、ありがとうございます!
第二部スタート記念で増量更新しちゃいました☆彡
とかやっていると原稿がすぐ尽きそう~
本作第一部が完結した翌日に以下作品も完結しています。
未読の方は、お盆休みなど夏読書を楽しむ際に、いかがでしょうか~?
『 皇妃の夜伽の身代わりに
~亡国の王女は仇である皇帝の秘密を知る~ 』
https://ncode.syosetu.com/n3474jd/
きっちり断罪もあり、ハッピーエンド。
怒涛の展開からの全伏線をきっちり回収。
読み応えあり、没入感あり、まさに一気読みに向いています。
ページ下部にリンク付きバナーがございます~