29話:ううん!? なぜですか、お父様!
無事に父親が帰還してから一週間。
父親は、大怪我はしていない。だからといって剣を手に動くことができるのかと言うと……そうではない。帰還した翌日からアレクに対し、剣術の指導を再開しているが、父親はあくまで指導のみ。つまりアレクと手合わせをするのは、父親の部下である見習い騎士達。手合わせをさせながら、指導をしていたのだ。
ところが。
アレクの剣術の腕は上がっており、もはや見習い騎士では相手にならない。
「見習い騎士では不十分。かといって正規の騎士は任務がある。休みを返上で手伝わせるわけにもいかない。殿下と同じぐらいの腕前の若手は……」
父親が食事の席でそんな独り言を言っていたのは、数日前のこと。
そして本日。
夕食の席で、父親が驚きの発言をする。
「殿下の剣術の練習相手として、ミルトン王立騎士団 第一騎士団ガイゼル・ジーク・カイザー団長の息子デューク・シモン・カイザーを、王都からこの辺境伯領に迎えることになった」
「まあ、ガイゼル卿のご子息! それは会うのが楽しみね」
母親は喜び、私は「うん……?」と思う。
「殿下と剣を交えるには、それなりの腕が必要だ。だがデュークなら問題ない。なにせあのガイゼルから直接指導を受けているからね。そしてカイザー家はこの地に別荘もないことから、我が家に滞在することになった。アイゼン高等学院に編入することも決まっている。仲良くしてあげなさい、クリスティ」
ううん!?
これにはちょっと待ってください、お父様!だ。
デューク・シモン・カイザーって、乙女ゲーム“花恋”のヒロインの攻略対象の一人ですから! どーしてよりにもよってデュークなんですかー!
心の中では絶叫している。だが私は「はい。分かりました、お父様」と笑顔で答えていた。その上で、尋ねている。「ところでお父様、なぜカイザー第一騎士団長のご令息なのですか?」と。
すると父親は懐かしそうに昔話を始めてくれた。
父親は母親と王都で出会い、その婚約や結婚のため、度々王都に滞在していたという。
その頃から父親は、剣術の腕が群を抜いており、その名が国中で知られ始めていた。そして当時、まだ騎士見習いだったガイゼルに、声を掛けられたのだ。
「ぜひ、手合わせを願いたい」と。
父親とガイゼルの手合わせは、勝負がつかず、三日に渡り、行われることになった。
その時はギリギリの攻防で、父親が勝つことになる。
そこで父親とガイゼルは、男の熱い友情で結ばれることになった。
以後、王都に行く度に、父親は母親共々ガイゼルに会っていた。
だがそれぞれ大人になり、父親は辺境伯に、ガイゼルはミルトン王立騎士団第一騎士団の団長に就任する。父親は王都へ行った際、変わらずガイゼルと会っていた。領地にいる間は、文のやりとりを続けていたというのだ。
つまりアレクの剣術の練習相手として、父親がガイゼルの息子のことを思い出すのは、自然な流れだった。年齢的にも丁度いい。何しろアレクとデュークは同い年。そこで父親が打診すると、ガイゼルは快諾した。いずれデュークも騎士団に所属することになる。いつかはアレクに仕える身になるのだ。ならば今からアレクと知り合えば、友好も深められる。いい機会だとなったのだ。
本来、王立ミルトン学園で、アレクとデュークは出会っているはずだった。だが私は王都にいない。その結果、アレクがアイゼン辺境伯領にやって来てしまい、さらにデュークまで呼び寄せてしまったのでは!?
うーん、そうとも言えないのかしら? 私が子どもの頃から断罪回避行動をしたことで、アレクと幼少期に出会ってしまった。だからアレクは辺境伯領にやってきた。
ともかく、だ!
父親は私に悪い虫がつかないか、常に心配していた。アレクと図書館で勉強している時さえ、心配していたのに。
どうしてガイゼルの息子に関してはノーマークなのかしら!?
一つ屋根の下に、妙齢の令息を住まわせるって、どーなのですか!?
私の心の声は、父親に届いたの?
おもむろに父親が口を開いた。
「クリスティ。安心しなさい。ガイゼルは立派な男だ。わたしが心から信頼している。その息子であるデュークも、父親譲りの素晴らしい令息であるに違いない。きっとクリスティのことも、妹のようにかわいがってくれるだろう」
いやいやいや、お父様!
ガイゼルを信頼する気持ちは分かります。
ですがその息子を無条件に信頼するって!
デュークはヒロインを前にすると、人格変わりますからねー!
騎士を目指しているのに、レディを敬う気持ちはどこへやら。
ゲームにおいてデュークは、悪役令嬢クリスティのことを、死の牢獄と言われるフィルス監獄へ幽閉し、一生そこから出られないようにするんですよー!
……あ、でも仕方ないか。
幽閉されるようなことを、悪役令嬢クリスティはしているのだから。命だけ取られないだけでもましと思わないと。
ではなく!
ともかくデュークが、待ったなしで転校してきてしまう……!
お読みいただき、ありがとうございます!
第二部開始までに以下の新作を公開しています。
春に書いた作品です。
よろしければご覧くださいませ~
『旦那様、離婚してください!
~悪妻化計画を実行中。溺愛されてもダメなんです!~』
https://ncode.syosetu.com/n6966jh/
ページ下部にリンク付きバナーがあります☆彡