27話:三つ巴
「む、娘はまだ、子供だ! 嫁になどやるつもりはないぞ! それに君はまだ剣の腕だって、未熟ではないか!」
「あ、あなた! な、何をおっしゃっていますの!? き、きっと昨晩、頭でも打ったのですね。さあ、横になってください!」
ソードマスターである父親からしたら、確かにアレクは未熟なのだろう。でもそれをズバリ言うことは、不敬罪になりかねない。しかも喧嘩腰で「嫁になどやるつもりはないぞ!」と言ってしまっている。
ここはもう、落ち着いてください、お父様!だ。
母親ともども私も平謝り。
断頭台を回避したい私からすると、父親の「嫁になどやるつもりはない!」はまさに神の一言。だがしかし。王家に忠誠を誓う辺境伯なのだ、父親は。それは言ってはならない言葉だった。
ひとまずこの場を収拾するため、一旦私がアレクを連れて応接室へ。
その間に母親が父親と話すことになった。
応接室のソファに腰をおろすと、まずは謝罪だ。
「お父様は過保護なので、咄嗟に口走っただけですから、どうかお許しください」
「許すも何も。僕は師匠もクリスティも大好きなんだ。さっきの師匠の発言で、何かの罪を問うつもりはない。でもやはりとても大切にされているのだね、クリスティは。これまで何度となく、師匠が現れたこと。偶然ではなかったようだ」
父親が現れたこと……社交界デビューの舞踏会から始まり、カフェ、図書館の勉強の時、そしてオリエンテーリングのことだろう。この件は父親の黒歴史として、娘である私は黙ってあげたくなる。……でもアレクには、バレているのかもしれない。
「君が僕の気持ちに応えてくれた時、師匠は僕の義父になる。例え僕が即位しても、義父に頭が上がらないと思う。それにあんな風に本音で接してくれる人は、少ないからね。逆に嬉しいくらいだ。クリスティからは勿論、師匠にも認められるよう、僕は頑張るよ」
それはもう自然に口についてしまった言葉。
「どうしてそこまで頑張るのですか?」
頭の片隅で、答えは分かっている。
それはここが乙女ゲームの世界だから。
悪役令嬢である私が、ヒロインの攻略対象である王太子と婚約する必要があった。ヒロインの花道で散り、王太子と彼女がゴールインするために。
でも、もしかしたら。
赤ん坊から始めた断罪回避行動により、この世界が変わり始めていたら……?
シナリオの強制力とは関係なく、アレクが動いてくれている可能性がないか。
ほんのわずかな期待もあり、口にしてしまったのだと思う。
そんな私の問いかけに、アレクはくすくすと笑っている。「それを僕に聞くの?」と。
「正直、誰かを好きという感情は、手に負えないと思うことがある。まさに恋に落ちるとは言い得て妙だ。落ちてしまった、クリスティに。今の僕は、クリスティに好きになって欲しくて、全力なんだよ。そのためならなんだってする」
今のアピールだけでも十分過ぎるくらい、クラクラしているのに。
「この気持ちが変わるなんて、思えないな。なにせ僕は六歳の頃からずっと。クリスティのことを思い続けてきたんだ。心変わりが心配というなら、クリスティ以外の女性とは接触せず、会話をしなくてもいい」
「殿下、それはやり過ぎですよ! その立場から社交や外交は必須。お気持ちだけで十分です……」
「そう? でも僕にはいつでもその覚悟があるから、そこの心配はしないで欲しいな。クリスティが僕の気持ちに応えてくれて、婚約するなら、昨日話した婚約契約書もちゃんと用意する」
アレクの誠実さに、胸が熱くなる。
さらに彼が言う婚約契約書を用意してくれるなら……という気持ちも芽生えつつあった。
でもお父様は……。
さっきはうっかり本音が出たと思う。
ただ母親に諭されたら……というか、今頃現実に戻り、「で、殿下に対し、何てことを言ってしまったのだ!」となっていそうだ。
王家への忠誠心から、自身の言葉については深く謝罪するだろう。その一方で、アレクと私の婚約を父親として認めるかというと……認めるつもりはない。
アレクは現在あくまで個人的に私への気持ちを表明している。でも正式に王家として彼の婚約者にと父親に話がきた場合。父親が「ノー」と言えるのか。「ノー」が許されるのか。それは分からない。
それでも父親が反対してくれるなら、私のバッドエンドな未来は回避できるかもしれない。つまり父親の反対は、ウエルカム!
ウエルカムなはずなのに。それを残念に思う自分もいる。
それだけではない。
アレクは今もそうだが、自身の気持ちを惜しみなく私に伝えている。
つまり彼の全力アピールを前に、私は耐えられるのだろうか!?
アレク=断頭台であることは十分に分かっている。
それでも舞踏会でアレクとダンスをした時。
つい全身から力が抜け、彼に身をゆだねたくなっていた。
完璧な婚約契約書があるなら、大丈夫なのでは?という悪魔のささやきも聞こえてしまう。
まさに喉元過ぎれば熱さを忘れる――なのかしら?
二度の断頭台の記憶さえ、アレクは自身の魅力で上書きしてしまいそうなのだ。
「まさに恋に落ちるとは言い得て妙だ。落ちてしまった、クリスティに」アレクはそう言っていたが、私もそうなりそうで怖かった。
全力で好きになってもらう気満々の王太子アレク。
三度目のループ、生き延びたい私。
娘を溺愛してくれる、最後の砦である父親。
この三つ巴の中、果たして私の運命やいかに――!?
~第一部・完 To be continued……~
お読みいただき、ありがとうございます!
げ、原稿が尽きましたー(涙)
続き、頑張ります。お時間くださいませ。
来週末までには第二部スタートしたいです。
ということでよろしければ作者頑張れーでいいね!や☆の応援いただけると嬉しいです↑↑↑
そしてお待ちいただく間、結構前に書き終えていた新作を入稿できたので公開しました!
【新作】
『周回に登場する中ボス(地味過ぎ!)魔女に転生!
~乙女ゲーなのに恋とは無縁と思いきや!?~』
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既に15話以上公開されています。
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【完結】西洋貴族の異世界恋愛ものです!
日間ヒューマンドラマ文芸ランキング2位☆感謝
『 皇妃の夜伽の身代わりに
~亡国の王女は仇である皇帝の秘密を知る~』
https://ncode.syosetu.com/n3474jd/
きっちり断罪もあり、ハッピーエンド。
怒涛の展開からの全伏線をきっちり回収。
読み応えあり、没入感あり、まさに一気読みに向いています。
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よろしくお願いいたします☆彡