26話:お父様が暴走する!?
アレクはがちがちに婚約破棄できない契約書を用意するという。
これならアレクと結ばれてもいいのかしら?
ち、違うーーーーーっ!
どうして告白に対する返事「イエス」で、つまりは婚約前提で話をしているの!?
危うく棺桶に片足を入れるところだった。
婚約したら、断頭台ルート確定なんだから!
……でも 婚約破棄できない婚約なら、断頭台にはならない?
どうせループするなら、試しちゃう!?
無理、無理、無理―――――っ!
あの断頭台の恐怖は、「試しちゃう!?」なんてレベルではない。舞踏会で足を……と考えた時でさえ、青ざめたのだ、私は。断頭台お試しコースなんてあり得ない。
「クリスティ。これでも足りない? なんなら僕が心変わりしたら、君が僕を断頭台に」
「送りません! 殿下を断頭台送りなんてできるわけがありません! というか殿下! いつの間に婚約前提で話を進めているんですか! 私、まだ返事をしていませんが!」
そこで「コ、コホン」と、とってつけたような咳払いに我に返る。
気づくとメイドの代わりとしてヘッドバトラーが控えていた。
私はサーッと青ざめる。
つい感情が昂り、王族相手にキレ気味で話してしまった。
「アレク王太子殿下、も、申し訳ありません」
「構わないよ。むしろ嬉しいかな。クリスティが僕にこんな風に感情をぶつけてくれるなんて。それにクリスティの言う通りだ。僕はまだ君から返事をもらっていない。だから先走り過ぎたかもしれない。でも僕は真剣だよ」
言葉通りの真摯な表情でアレクが私を見た。
「僕の好きは、婚約者になって、だから。遊びの恋をクリスティとしたいわけではない。君のことが大切なんだ。それだけは分かってほしい」
本当に。
本当に、神様。
このアレクがヒロインを好きになり、私を断頭台に送る人なのですか……?
思わずそう問いかけたくなるくらい、アレクは誠実に私への気持ちを打ち明けてくれた。こうなると私は「分かりました」としか言えない。
帰りの馬車の中では、断頭台と今のアレクを天秤にかけ、ため息ばかりだ。
断頭台、無理―――――っ!の気持ちが、揺らいでいた。
◇
翌日。
父親を救出してくれた御礼。
それを正式にアイゼン辺境伯家として、アレクへ伝えることになった。
本来、我が家から出向くべき案件だ。だが父親が怪我をしているため、アレクが屋敷ヘ来てくれた。
今日は週末で学校は休み。そしてアレクは朝になると、熱もすっかり下がっていた。熱も下がり、すっきり、完全に元気を回復していたという。そこで午後、我が家に来ることになったのだ。
エントランスでの出迎えは、母親と私でいいと、予めアレクが伝えてくれていた。怪我人に無理をさせたくないと。この配慮に母親は感動している。
こうして母親と二人、アレクが来るのをエントランスで待つことになる。
子供の頃、母親とはよく、お揃いのドレスを着ていた。最近はそれも減っていたのだけど……。今日はアレクへの感謝を込め、彼の碧眼の瞳を思い出させるセレストブルーのドレスを母親とお揃いで着ていた。
「まるで双子のようですね。お二人ともそのドレス、とてもよく似合っています」
到着したアレクは私と母親のドレスを見て、笑顔になる。
私と双子=若く見られた!と母親は大喜びだ。
一方のアレクは、コバルトブルーのセットアップでとても爽やか。病み上がりなのではと心配したが、健康そのものに見える。母親と二人、安堵し、早速父親のいる寝室へ案内することに。
父親は見苦しくないようにとシャツを着て、肩からジャケットをかけている。そしてベッドで上半身を起こし、アレクを迎えた。
ベッドの左手に、アレクのための椅子を用意していた。アレクにはそこへ座ってもらう。母親と私は、ベッドの右手に椅子を並べていたので、そちらに着席した。
まずは父親がアレクに御礼を述べることになる。
「アレク王太子殿下。この度はわたしのために、ご自身の部下を動かしていただき、ありがとうございました。何よりわたしを見つけ、村まで連れて行ってくださったこと。心から感謝しています。助かりました。重ねて御礼申し上げます」
これに対しアレクは「お役に立ててよかったです」と笑顔になる。そんなアレクに父親は、思いがけない質問をする。
「殿下はなぜ、夜を徹してまで、自分を探してくださったのでしょうか?」
「その理由は三つあります。まず辺境伯は王族にとって大切な家臣であり、忠臣だからです。次に辺境伯は僕にとって師であります。師匠を思う個人的な気持ちもとても大きいです。最後に僕はクリスティとの交際を望んでいます。婚約をしたい気持ちがあるのです。その彼女の父親であるあなたを、助けないわけがないです」
これを聞いて父親はビックリ。母親は「まぁ」と言った後の言葉が続かない。
まさかアレクが両親の前で、私のことを好きです!と言い出すとは思わなかった。
娘を溺愛する父親が、何の前触れもなく、この手の話題を振られたら、どうなるのか。若干心配しながら、父親の顔を見ると……。
「む、娘はまだ、子供だ! 嫁になどやるつもりはないぞ! それに君はまだ剣の腕だって、未熟ではないか!」