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20話:ずっと君のことが

 森で迷子になり、泣きそうにしていた可愛らしい少年。

 それがこんなに素敵な青年へと成長しているなんて!

 というか、私、まさか子供時代にヒロインの攻略対象に会ってしまっていたとは!


 クリスティが二度も断罪される人生を知り、回避行動を赤ん坊から始めている。回避行動……それは二度の過去では行っていない行動だ。その結果、アレクと私は子供時代に出会ってしまっていた。これがこの世界にどんな影響をもたらすのか……。吉と出るか凶と出るか、まったく想像がつかない。


 私が思案を巡らせる一方で、アレクは嬉しそうに話を続けていた。


「学院入学前までに、一通りの王太子教育は終えることができた。でも勉強を頑張り過ぎて、剣術はまだまだだった。クリスティに会うことが第一の目的。でも同時にソードマスターであるクリスティの父君に、剣術を習うことを思いついたんだ」


 さらりとアレクは口にしていたが、通常王太子教育は、学院卒業まで続くはずだ。三年も前倒しで終えるなんて、前代未聞ではないのかしら? それに剣術はまだまだというが、それは父親と比較してのこと。同年代の生徒達に比べたら、アレクの剣の腕前は騎士と変わらないと思う。


 つまりアレクはとんでもなく優秀だということ。卑下することなど何もない。


「再会までには、随分と時間がかかってしまった。再会した時、クリスティは僕を覚えているだろうか。そう思いながら、再会したわけだけど……」


 全然覚えていませんでした。ここは「申し訳ありません」と謝罪するしかない。だがアレクは残念がるどころか嬉々としている。


「僕を覚えていないことは、すぐに分かった。そうなるとクリスティにとって僕は、初対面の相手になるよね。あのかっこ悪い幼い頃の僕ではなく、ちゃんと成長した僕から知ってもらうことができる。ならばと昔の出会いについては話さなかった」


 なるほど。それなのに今、打ち明けることになったのは、なぜなのかしら……?


「クリスティは成長した僕を見ても、全く関心を持ってくれない。それに師匠も、僕がクリスティに近づくことを、警戒している」


 ああ、それはアレク、あなたが私を断頭台に送る人間だから。

 そして父親は、私を溺愛し、そして過保護なんです……!


「今、あの時の少年であることを打ち明けた。そのことで、僕を見る目は何か変わった?」


 何か変わったのか。

 そもそも変わるも何も……。


 いろいろと心を揺さぶられることはあった。

 だがこれだけは確かなこと。

 アレクは私にとって、断頭台でしかない。


 そして最も回避すべき相手に、既に出会っていたのに気づかなかった自分に、馬鹿野郎とでも言うべきなのか。


「!」


 アレクが私の手をぎゅっと握った。

 手をつないでいることが当たり前になっていた。

 でも今のぎゅっで、改めて手をつないでいたことを思い出した。


 そこでアレクを見上げると、彼の碧い瞳と目が合った。


「僕は……初めて会ったその日からずっと、クリスティが好きなんだ」


「えっ」


「今日、気持ちを伝えることになるなんて。自分でも予想できていなかった。でも今ここには、クリスティと僕しかいない。……護衛の騎士はいるかもしれないが、離れた場所にいる。だから伝えるなら今かと思って。……僕のこと、好きになって欲しいな」


 アレクは性格、知性、容姿、武術、身分……何もかも完璧だった。

 そうであっても。


 無理なんです、無理なのですよー!

 だってあなた、私を断頭台に送るんですよー!


 好きになるなんて、できるわけが……。


 ……。


 心惹かれてしまうのは、シナリオの強制力?

 早く婚約しろ!と、ゲームの神様が言っている?


 でもダメなものはダメ。

 アレクは……断頭台なのだから!


 それでも今、真摯に気持ちを伝えてくれたアレクに対し「無理です。あなたに将来、殺されるから!」なんて言えない。


 困り切って顔を上げた私は、雨が止み、ひょうも降っていないことに気が付く。

 それまでどれだけアレクとの会話に集中していたのかと、思い知ることにもなった。


「あ!」

「?」

「虹が……」


 ゆっくり顔をあげ、虹を見たアレクは「すごいね。さっきまでの天気の急変が、嘘のようだ」と無邪気に微笑む。そしてゆっくり立ち上がった。さらに当たり前のように手を差し出し、私が立ちあがるのに手を貸してくれる。


 しばし二人で、美しい虹を眺めた。


 あんなに暗かった空は、午後の明るさを取り戻している。

 急速に雲が流れ、鳥のさえずりも聞こえてきた。


 森の木々は雨水に陽光を受け、輝いているように見える。

 沢山あった雹も、急速に気温が回復し、どんどん溶けていた。


「あの頃より僕は成長したつもりだ。森に関する知識も深めた。この木はラクウショウだろう? 成長速度も速く、沼地にも向いている木で、湿気に強く腐りにくい。だから船を作るのによく使われる」


 アレクは背後の巨木に手を伸ばし、そうスラスラと説明をした。

 これには驚いてしまう。


「ただ学ぶことに終わりはないと思う。これからも僕は学び続けるつもりだ。剣術の腕も磨き、クリスティを守れるような男になるつもりだ。師匠に負けないぐらいにね。……僕に足りないところがあれば、昔みたいに言って欲しいな」


 清々しい笑顔。

 アレクの向上心には尊敬しかない。


「急に告白されても、答えは出ないよね。考える時間は必要だと思う。だから考えてみて、クリスティ」


 まさに神対応。

 この場で返事をしないでいいなんて。

 そう思った矢先に。


「クリスティーーーーーー!」

「!? お、お父様!?」

お読みいただき、ありがとうございます!

皆様、七夕の小話、覚えていますか?

七夕の日にアレクが短冊に書いた言葉。

I’m a music lover, with a cute, humble entity.

(私はただの音楽愛好家。かわいらしく、控えめな存在です)

クリスティの父親はアナグラムだと見破っていました。

このアナグラムの元になる文はコチラです。

May I become mutual love with Christie.

(クリスティと相思相愛になれますように)

ずっとずっとクリスティのことが大好きだったアレクなのでした!

ヾ(≧▽≦)ノ

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