17話:ここ、学院の敷地内ですよね?
ようやくテストが終わった!
前世だとテストが終わったこの時期に、体育祭やスポーツ大会がある。だがこの世界、基本的に令嬢は運動をしない。
その代わりなのかしら?
学院の敷地内の庭園にある森林エリアで、オリエンテーリングが行われる。
前世でオリエンテーリングといえば、山の中で行われた。
森林とはいえ、それは学院の敷地内の庭園に存在する。
そんな場所でオリエンテーリングを行うの……?
そう思う気持ちがあるものの。
学院に通うのは、良家の令嬢令息。しかも今年の一年生には、まさかの王太子もいる。
実際、山の中でオリエンテーリングを実施したら……。
イノシシやクマに似た動物もいるのだ。大変なことになる。
ということで庭園にある森林エリア。
ここでオリエンテーリングが行われるのは、当然のことだった。
そこに危険な獣がいないことは確認済み。
ついでにいえば、スズメバチなどの害虫の駆除も済んでいるという。
その安心安全な中で行われるオリエンテーリング。
チームは学年横断で組まれる。
一年生から三年生まで、各男女ペア二名の六名で一つのチーム。
私のペアは……まさかのアレク!
ここにもあの社交界デビューとなった舞踏会のエスコートが尾を引いている気がしてならない。絶対に、学校側が忖度をしたのでは!?
ともかくその日となり、歩きやすいよう、くるぶしまでのスカート丈のワンピースに着替える。さらに足元はショートブーツ。ワンピースの色は、涼し気なアイスブルーだ。ストローハットも被る。
オリエンテーリングの日だが、アレクはそんなこと関係なく、早朝から剣術の練習を父親と行っている。練習を終えると、白シャツに薄手の麻のスカイブルーのジャケット、そしてズボンという軽装に着替えていた。
こうして学校へ到着すると、そのまま森林エリアへアレクと共に向かう。
庭園にはテントが設営され、出席確認が行われている。
チームごとに集合だった。
全員揃うと受付を行い、地図とコンパスを受け取る。そして早速スタートだ。
オリエンテーリングが行われる理由。それはいくつかある。自然に親しむ。チームワークに取り組む。学年横断でチームが組まれることから、他学年と交流する……。
そう。他学年との交流もテーマなのに!
忖度。そしていざ王太子と話せるとなると、躊躇するようだ。
結局、アレクと私が並んで歩き出すことになっている。
ちなみに少し後ろを護衛の騎士二人がついてきていた。
護衛の騎士……これもあってみんな、遠慮しているのでは!?
それでも別れ道があったり、チェックポイントで出題される問題を解いたり、それはチーム一丸で取り組むことができた。順調にチェックポイントを巡り、気が付いたこと。
それは……。
この森林、意外と広い!
ここが学院の敷地内であることを忘れそうだった。
「えーと、ここで昼食にしましょう」
三年生の令息の言葉に、休憩となったが……。
そこには小さな池がある。
しかもその池、実に美しい。
透明度のあるターコイズブルーで、空と雲、周囲の木々が映り込み、絶景になっている。学院の敷地内に。しかも庭園にこんな素敵な池があるなんて!
ここで昼食休憩をとるチームのみんなが、池に釘付けになっていた。
「学院の敷地内にこんな池があるなんて、アイゼン辺境伯領ならではだね。王都にはこんな池はない。人工的に作られた池はあるけど、こんな色はしていないよ」
そう言うアレクの横顔を見て思う。
アレクの瞳の色みたいに綺麗だわ――と。
「どうしたの、クリスティ?」
不意打ちでこちらを向き、美麗な笑顔を浮かべるから、心臓が止まりそうになる。「な、なんでもないです」と答えているが、心臓がドキドキしてしまう。
美人は三日で飽きる。秀麗な攻略対象も三日で飽きる……なんてことはなさそうだ。毎日会っているのに見慣れないし、これはもう困ってしまう。
「では昼食、食べようか」
そう言ってアレクが私の手を取り、エスコートして歩き出す。
さらにチームメンバーに声をかける。
「良かったら一緒に昼食を食べよう」
なんと護衛の騎士が大きな布を敷き、背負ってきた荷物からシャラーンと豪華な料理を並べていたのだ。
これには「「「「おおおおおっ!」」」」という歓声が起きる。
銀食器に並べられた料理は、どれもオリエンテーリング中の学生が口にするようなものではない! だって奥さん、見てくださいよ、キャビアがクラッカーに添えられていますよ! それにしれっとフォアグラのソテーもあるではないですか!
しかも鳥の丸焼きまである! それをスライスし、取り分けることまで、護衛の騎士はやってくれる。
もはや我がチームだけ、王族とピクニック状態!
当然、食べきることはできないので、周囲のチームにもお裾分け。
フォアグラにしろ、キャビアにしろ、高級食材。
いくら良家の令息令嬢でも、日常的に口にするわけではない。晩餐会といった特別な日に食べるものだった。こんなオリエンテーリングで食べることができると思わず、大喜びだ。
この昼食を機に変化が起きる。
チームの上級生の令息が、アレクに声をかけた。私にも上級生の令嬢が話しかけてくれる。
そうか。こんなにゴージャスで大量に用意して、どうするの!?と思ってしまったが。アレクはこの昼食で、みんなと仲良くしようとしていたのかな。そうでなければこんなに大量に準備するはずがない。
そういえば教室にいる時も、みんなが寄って来るけど、嫌な顔を一つせず、対応していた。
今さら気づく。文武両道に加え、性格もいいことに!
そんな気づきと共に、豪華過ぎる昼休憩も終了。
護衛の騎士はあっという間に片づけをして、移動できる状態になっている。
こうして再び移動を開始する。
アレクも私も上級生と話しながら、歩き出していた。
すると。
まだ午後を回ったばかりなのに、突然、暗くなったように感じた。
しかも肌寒く感じる。
さらに。
ドドンという雷鳴が轟き、悲鳴が起きる。
そしてポツポツなんて甘優しい感じではなく、割とザーという感じで、雨が降り出した。