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【春の特別更新】花より団子、アレクより……

 春。


 アーモンドの花が咲き誇る中、私がアレクと共に訪れたのは……。辺境伯領の温室! 他でもないここで……。


「クリスティ、すごいよ! 青々とした葉が茂り、間違いなく、地中でスイートポテトが育っているよ」

「アレクの言う通りだわ。間違いなく、サツ……スイートポテトが育っていると思うわ」

「では収穫だね」

「はい!」


 春の到来に合わせ、私はミモザ色のドレスだが、そこにエプロンを合わせ、手には軍手。アレクもいつも通りのスカイブルーのセットアップだが、上衣を脱ぎ、ベストにエプロンをつけ、手には軍手と私とペア・コーデだ。


「それでクリスティはスイートポテトの収穫方法、学習済みなの?」

「はい! 文献でバッチリ勉強しておいたわ!」


 なーんて答えていますが! 文献にスイートポテ……サツマイモの収穫方法なんて書かれていない!


 でも私はサツマイモの収穫方法を知っている。なぜなら前世で小学生の時、遠足で芋ほりを体験しているから!


 冷静に考えると、遠足で芋ほり……とは思うけれど、今日という日のための予行練習だったと思う。


 ということで。


「アレク、こちらへどうぞ」

「うん」


 素直なアレクは私の側へ来て、膝を折り、土の様子を確認する。


「アレク、土より、この葉の方を見て!」

「葉……これはまだ青々としているけど、これは黄色で枯れ始めているね」

「はい! こうやって変色しているものは、実りの合図。収穫してOKなの」

「なるほど」

「そしてこの蔓からスイートポテトがどのあたりで成長しているか、当たりをつけるのよ」


 沢山ある蔓の邪魔な部分は剪定し、その後はスコップ片手に土を掘り返していく。


「勢いよく掘ると、スイートポテトを傷つけてしまう可能性があるでしょう。だから周囲の土を浅く掘るようにするの」

「任せて、クリスティ!」


 アレクは頭がよく呑み込みも早い。私が言わんとすることをすぐに理解し、いい感じで土を掘り起こす。


「ここまで来たら、ここにスイートポテトが沢山ある……と思うので、大き目のスコップで周囲の土を丸ごと盛り上げるようにして……そう、その状態で、蔓を掴んで、揺すると……」

「こうか。こうだね」

「そう! それでそのまま持ち上げると……わあ、すごいわ、アレク! とっても立派なスイートポテトが現れたわ!」

「本当だね、しかも一つ、二つ、三つ!」

「この要領で、残りも収穫しましょう」

「オッケー!」


 そこからはアレクと二人でゲーム感覚でサツマイモを掘り起こすことになった。こんな経験、アレクは初めてだから、大喜びで楽しんでいる。


「クリスティ、見て! 籠いっぱいになったよ!」

「ええ、豊作だわ! これでフリットもクロケットもスイートポテトも。ぜーんぶ作ることはできるわね!」

「師匠も大喜びだ」


 辺境伯領の温室の半分がスイートポテトことサツマイモ畑になっていた。そこでアレクと私はたんと収穫をして、屋敷へと戻った。


 ◇


 温室に併設されているサンルーム。

 そこには大き目のカウチが置かれている。


 かつて病弱だった母親が外へ出る代わりで日光浴を存分に楽な姿勢でできるように用意されたカウチは、大人二人が余裕で寝そべることができた。アレクと私は二人でサツマイモの収穫を行い、かなりはしゃいだからだろう。無事に収穫を終え、厨房にサツマイモを届けると、このサンルームのカウチに二人で座り、そのまま……ウトウトしてしまったようだ。


 大き目のクッションに持たれ、私を守るように抱き寄せるアレク。その胸にもたれるようにして、私はそのまま微睡んでいた。アレクは最初、起きていたが、私の寝顔を見ていると……あくびが、一度、二度と漏れ……。


 二人して昼寝タイムに突入してしまう。


「! 未婚の男女が一つのカウチであんなふうにもたれて昼寝とは! 破廉恥だ!」

「もう、あなた! 二人は婚約しているんですよ。それに無邪気に昼寝をしているだけです。何時間も寝ているわけではないでしょう。この後、スイートポテトでティータイムなんです。ちょっとの間ですわ。気持ちよさそうに寝ているのですから、いいじゃないですか」


 遠くでぼんやり聞こえる両親の声。

 過保護お父様だけど、妻にはすこぶる弱い。


「……君がそう言うなら……今日は特別だ」


 うっすら目を開けると、父親は口をへの字にしながらも、母親と共にサンルームから出て行く。一方のアレクと私は……。


 しばらくは午後の微睡みのお昼寝タイム。


 でもアレクはスイートポテトの甘い香りに一足先に目覚め……。


「……クリスティ、なんて愛らしい寝顔なんだろう……」


 私の寝顔にキュンとしたアレク。

 年齢としては女性への衝動が高まる時期なのに。そこをぐっと我慢しつつ、溢れる想いを込め、私の額へ優しくキスをする。


 司祭でさえ、祝福のために額へキスをするのだ。額へのキスなんて……本当にいろいろ我慢した結果だと思う。そして私はそのキスで目覚め……。


「アレク……」

「クリスティ」


 見つめ合い、胸がトクトクと高鳴る。


「いい香りがするね。きっとクリスティが言っていたスイートポテト。完成したんだよ」


 その言葉を聞いた瞬間。


 この時ばかりは私は……花より団子。アレクよりスイートポテトになってしまう。


「アレク、喫茶室へ行きましょう!」


 もうガバッとカウチから起き上がり、普段とは逆転。まるで私がアレクのように、彼をエスコートして歩き出そうとしている。その様子を見て、アレクは大天使のように微笑む。


「僕はスイートポテトに負けたのかな?」

「! アレクは私の一番です!」

「クリスティ……!」


 アレクがふわりと私を抱き寄せようとした瞬間。


「殿下、クリスティ! スイートポテトが完成しましたよ!」


 突如現れた父親が私の腕をぐいっと引く。

 その結果、私はアレクの腕から離れ、父親は……。


 なぜかアレクの腕の中にすっぽり収まっている父親。


「あらあら、男性陣二人は何をやっているのかしら? クリスティ。あなたの言っていたレシピで、とっても美味しそうなスイーツが出来たのよ。いらっしゃい」

「はーい、お母様!」


 春爛漫。

 アイゼン辺境伯領は幸せに満ち溢れていた……♡


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