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2.バグった世界

 


 クレイがいるはずの所に、グレイがいる。


 そんな違和感もさすがに毎日一緒にいれば慣れてきて、不愉快だった気持ちも今は消えつつあった。とはいえ、どうしてクレイがグレイに変わってしまったのか? という疑問は常に頭の片隅に残っている。



 ただそれには、一つだけ思い当たることはあった。


 乙女ゲーム『プロフィティア~転生の予言者~』には有名なバグが存在した。それは、攻略キャラクターの一人である『クレイ・モアール』が画面に映らなくなってしまうこと。


 下に表示されるセリフと一緒に立ち絵が出るタイプのもので、ストーリーとキャラクターとのエピソードに重きを置いた作品だ。


 そしてビジュアルが大切な乙女ゲームにおいて、攻略キャラが表示されないということは致命的なバグでしかない。

 それだけでも嫌なのに、スタート時に入力したヒロインの名前すら表示されなくなり、キャラがヒロインの名前を呼んでくれなくなる。

 そんな状態で強引にゲームを進めると、最後には進行不能に陥り強制終了しなくてはならなくなってしまうのだ。


 そして、その現象はなぜかクレイのみに現れるため、ファン界隈では映らなくなった彼を『バグレイ』と呼び、面白がられて動画にまとめられたりもした。




 そして私の前に現れた彼は、その『バグレイ』ではないかと予想している。

 グレイという名前、そして色が反転したような黒い姿。私はもしかしたらバグった世界に生まれてしまったのだろうかと真剣に思った。


 考えてみれば、リディアである私が転生者というのもおかしな話だ。ゲームの中の悪役王女リディアにはそんな設定はない。


 つまりこの世界は、私の知っている『プロフィティア』とは少し違った、似て非なる世界なのかもしれないということ。

 もしそうだとしたら、私が生贄になる運命も変わっていてくれたらよかったのに、と文句も言いたくもなる。



 前世は十五の半ばで人生を終えた。そして生まれ変わった私の人生も、このままいけば十八という歳で終えることになる。

 私だって一度は長い人生を謳歌してみたい。人と愛し合ってみたいし、結婚だってしてみたい。運命に抗えるのなら抗いたい。


 でもどうしたらいいの?


 私はセダ王国を旅立つ時まで、色々と考え思い悩み、ぐるぐると出口のない答えを見つけようとしていた。







 そしてとうとうその日が訪れる。


 父国王と母王妃、それから三人の兄たちへの最後の挨拶を終えた後、グレイを従えて宮殿前の庭園広場へと向かった。すでに王族専用馬車が用意され、見送りの手筈が整えられている。


 居並ぶ貴族高官や騎士たちと共に、王家に仕える侍従侍女たちも見送りの列に並んでいる。私はその中から大好きなセシルを側に呼び寄せた。



「リディア様、ラダクールはこちらと気候が違うと伺います。お身体を壊さぬようお気をつけくださいませ。あちらのお土産話を楽しみにして、お戻りになられる日を心待ちにしておりますね」


 青空の下、にこやかな笑顔で送り出してくれるセシルに、ありがとうと応えた。


 とても爽やかな空気で、旅立つ日に相応しいよく晴れた朝。彼女の笑顔を眩しく感じながら、少しだけ胸が苦しく寂しく思う。この旅がどういったものなのか、今も彼女には知らされていない。

 セシルを姉のように慕い、たくさん話し相手にもなってもらった。


 今までありがとう、あなたもお幸せに。


 そんな言葉を胸にしまって「では行くわね」とそれだけを言って、馬車に乗り込んだ。

 周囲を騎馬兵によって固められ、馬車は静かに動き出す。



 さようなら。


 大勢に見送られ、私とグレイはセダの王宮を後にした。おそらく二度と戻ることはないであろう宮殿を、一度だけ窓から眺める。

 私が生まれ育った住処はただ美しく無機質にそびえ立ち、それはゆっくりと遠ざかっていった。



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