ゲーム脳!脳!
「こら! タカシ! いつまでゲームなんてやってるの!」
「はぁ・・・・・・」
「ちょっと! 溜息で返事するって何!?
はぁ、ねぇいい? ゲームはね、脳に悪いのよ! 溶かすの! わかる!?
ゲーム脳っていうのよ! この前テレビドラマでやっていたわ!」
「はいはい」
「あ! こら! ちょっと、待ちなさい!」
ぼくはリビングのソファーから立ち上がり
まだ喋りたがるママの口に背中を向けて部屋を出た。
ドアが閉まる寸前、チラリと振り返ると
ママの怒った顔とその向こうには、うるさいテレビ画面が見えた。
『ママの言っているようなことは偏見だって
その大好きなテレビで前に誰かが言っていたよ。
ぼくがゲーム脳ならママはテレビ脳だ』
・・・・・・なんてことを言ったら、きっとママはモンスターに変身しちゃうだろう。
そんなぼくの気遣いなんて知らずに
ドアの向こうでママが椅子を引いて座り、煎餅の袋を開けた音が聞こえた。
「何・・・・・・これ?」
翌朝、目が覚めると信じられないことが起きた。
ぼくの視界に数字のゼロとそれにこれは・・・・・・ライフゲージ?
これじゃまるでゲームの画面じゃないか!
「マ――」
っと待てよ。ママにこんなこと言ったら
『ほら見なさいそれがゲーム脳よ! あたしの言ったとおりでしょ!』って怒られて
病院に連れてかれちゃう。
ここは何も言わないでおこう。
これはきっとゲームの神様からのプレゼントだもの。
朝食を食べ終えたぼくは家を飛び出した。
誰かに言いたい気持ちで一杯だけど今日は休日。学校はお休みだ。
それにしても思った以上に楽しい。
いつもの道がなんだか違って見える・・・・・・っと? あれ?
今、視界の端にある数字が増えたぞ?
これはスコアか何かかな?
何で・・・・・・何もしてないのに。あ、まただ。
敵を倒した? でも敵なんてどこにも・・・・・・
あ! まさかこの蟻かな? 蟻、蟻、他の蟻は・・・・・・
お、ダンゴムシがいた。こいつでいいや。えいっ。
おお! やっぱりだ! このスコアは敵を倒せば増えるんだ!
そうと分かれば・・・・・・。
ふぅ、だいぶ踏んづけたけどやっぱり虫じゃ全然増えないなぁ。
「あ、トカゲ・・・・・・」
・・・・・・お、五ポイントか。
ところでこのポイントは何かに使えるのかな?
ただのスコア?
レベルアップもしないし、うーん、それとも足りないだけ?
「お!」
数字を集中して見つめたら何か出た!
購入? ドリンク? 薬かな。
えー、苦いのは嫌だけど、うーん、やってみるか! せっかくだし!
「お、おおおおお!」
なんだこれ! なんかすごい! 体がカッカして来た!
「ははははっ! あはははははは!」
走っても全然疲れない! 楽しいぞ!
きっと強化アイテムだったんだ!
お、猫だ! よーし、あ!
「痛い!」
クソッ! なんだよ! 逃げられた!
「あああああ! うううぅぅぅ! イライラする! あああ! 戻って来いよクソ猫!
逃げんなバカ! クソ! クソ! 死ねよ! 死ね! 死ね! あああ!」
「ワンッ! ワンワン!」
「ああああぁぁぁぁ! うううるさい! クソ犬! うーううう! んん?」
何だ? 音楽が、流れ、始めたぞ。
まるで敵と遭遇したときの・・・・・・あはっ。
「ただいま・・・・・・」
「おかえりな・・・・・・何よそれ! 泥だらけじゃない!
それに怪我!? 血!?
どうしたの一体! あーもう! 床を汚さないでよ!」
・・・・・・うるさいなママ。
あ・・・・・・。
あの音楽だ。
フーンフフンフンフン・・・・・・
「どーです!? このドラマ! 素晴らしいでしょう!
現代に警鐘を鳴らす一陣の風となり――」
「あー少々やりすぎでは? あの子が脳内で購入したあの薬みたいなやつ
あれって脳内麻薬でキマッたって意味だろう?」
「そーです! のめり込んでハイになっていくんですねぇ!
ゲームが蔓延るこの世の中。
子供たちの健全な精神を守るために、こういった具合に
政府主導で世の中にその危険性を広めていくべきなんですよ!」
「しかしだねぇ。根拠に乏しいと言うか
そもそもゲームはもう、わが国の一大産業であるからあまりそういった・・・・・・っと失礼。お、ふふふ」
「何です? 電話? いや、まさかゲームを!」
「や、やめたまえ! こら! 返せ!」
「これは・・・・・・ほう、マッチングアプリ。若い子がお好きですか大臣」
「ま、まぁ、ちょっとやり取りをね・・・・・・相談とか乗ったり」
「一人や二人じゃないんでしょう?」
「う、ううん。ま、まあな、ついつい嵌っちゃってな・・・・・・」
「スマホはお返ししますよ。前向きに検討していただけますよね? っと、う、ちょっと失礼」
「どうし・・・・・・おいおい、何だその錠剤は」
「え、いや、これはそのぅ・・・・・・へへ、ちょっとやめられなくて・・・・・・」