6.初めてのデート
「頼まれてくれないか」
ベンは城下町で人気の焼き菓子を買ってきてほしいと言った。
朝から行列が出来、昼前には売り切れてしまう焼き菓子を妹の誕生日に用意するつもりだったが、どうやら予定が入ってしまったらしい。
引き受けようとすると、何故だかフィリップも一緒に行くことになってしまった。
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影武者の存在は公にされていない為、公務以外でははカツラを被っている。
普段は金髪だけれど、お願いしてエレノア様と同じ髪色にしてもらった。
エレノア様というのは隣国に嫁いだフィリップのお姉様で、凛として美しい巷の女の子の憧れの存在だった。
一緒に出掛けたことはある。
王子と従者としてだけど。
そもそも話した事がほとんどない。何故なら苦手だったから。
「王子を好きになっても無駄だから、やめとけ」
影武者になって少し経った頃突然そう言われた。
図星だったから悔しかった。
人の弱い部分にズカズカ入ってくる所も嫌いだった。
けれど目の前の人は別人のようで、今日は朝から隙あらばエスコートしようとしてくる。
ーーもしかして令嬢扱いしようとしてくれてる?
「ねえ」
窓際の席で庭園を眺めている彼に尋ねる。
「どうして髪切っちゃったの。似合ってたのに」
「影武者を止めるまでと思ってたからいいんだよ」
「せめて俺だけでも」
「‥‥‥でももう伸ばせるだろ」
ほんのりと頬を赤らめたフィリップがこちらをじっと見つめてくる。
なんだか今日はおかしい。
多分、私も。