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5.交わるまなざし
翌日訓練を終えベンと遅めの昼食を取っていると、食堂が急に騒ついた。
目をやると、フィリップが同僚達に囲まれている。彼を象徴する眼鏡と銀色のロングヘアーがなくなっていた。
驚いて思わず立ち上がる。
目が合うとこちらに向かって歩いてくる。
ベンは嬉しそうに近寄り髪をわしゃわしゃと撫でながら
「似合うなあ!」
と言った。
ベンはフィリップをひどく気に入っているようでよくちょっかいを出しては煙たがられている。
目の上で切られた前髪はいつもより彼を幼く見せる。
ーー昨日タイプじゃないと言ったせいだろうか。
「あの、」
言葉を続けようとすると、彼はグイッと顔を近付けて耳元で囁く。
「リリアナ」
「本気だと言っただろう」
影武者の姿で名前を呼ばれるのは初めてだった。
少し距離を取ると、また感情の読めない目で彼は言った。
「考えてみてくれないか」
真意がわからなくてじっと見つめる。
その時グイッと肩を組まれた。
「頼みがあるんだが」
ニッコリとベンは笑った。