1.影武者の卒業
「やっと婚約を受け入れて貰えた!」
嬉しそうにウィルが言う。
婚約を受け入れたのはソフィア嬢で、もう何年も前から彼は彼女に夢中だった。
小柄で目が大きくて子猫のように気まぐれだった。
自分で選んだ事と分かっていても喉の奥がヒリヒリする。
一言でも口にすれば今にも泣いてしまいそうだ。
「おめでとうございます」
言葉を紡ぐより先に、隣の男が口にする。
「リリーのお陰だよ」
同じ目線の高さでウィルが言う。
「…良かったね」
なるべく目を合わせないように、気づかれないように告げる。
ウィルは幸せそうに笑った後、肩を抱く。
ーーあの方の頭は抱きしめてもこんな近くに無いんだろうけど。
自分との身長差を考えて虚しくなる。
「そろそろ鍛錬の時間ですよ」
側近のフィリップが口にする。
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第一王子の影武者になったのは、八歳の頃だった。重要な行事はいつも待機が必要で、友達もほとんどできなかったけれど、このか弱くて頼りない王子の支えになっている。
それだけで、誇らしかった。
「ソフィア嬢とうまく行くように協力してほしい」
照れ臭そうにウィリアムが口にしたのは去年の春の事だった。
ソフィア嬢とは何度もデートを重ねたし、親愛のハグもなんなら手の甲にキスぐらい積極的にしてきた。
もういっそ一生影武者として生きるのもアリかと考えたけれど、ソフィア嬢と仲睦まじく暮らす側で生きようとは簡単には思えなかった。
ーーこの婚約が決まったら、役目を終えたら、隣国に留学しよう
そう決めて最善を尽くしてきたつもりだった。
連載を始めました。中〜長編になる予定です。良ければブックマークをお願いいたします。