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その日神殿の広間に呼び出された者たちがいた。
その多くがレフィエリにて戦闘要員として活動している男たちであった。
「よく集まってくださいました」
十数人の前に出て口を開いたのはレフィエリの女王とも言える女性レフィエリシナ。
両手を腹の前で重ね背筋をぴんと伸ばして立っている彼女の姿は古の女神のよう。
そんな彼女の姿を皆じっと見つめている。
まるで心を吸い取られてしまっているかのような様子で。
「ここのところ、北の森にて、人を襲う魔獣が多く発見されているそうです。そこで、退治してきてほしいのですが……どなたかお願いできますか?」
レフィエリシナはそこまで発して言葉を止める。返事を待っているのである。しかし良い返事はなく、静寂が訪れてしまう。広間に集まっている者たちはいかにも強そうな大男も多いのだが、それでも、対魔獣の戦闘となると気が進まないようで。皆、近くの者と顔を見合わせるようにしながら、良い返事はせず息をひそめていた。
その時。
「はーい」
人の群れの中にいた一人の小柄な男性が手を挙げる。
その人物はリベルだった。
彼は右手を開いた状態で掲げている――それでも周囲の男たちの背よりかは低いところに手があるのだけれど。
「リベル」
「それってー、個別に報酬出ますよねー?」
「出ます」
「じゃ、僕、やりますね!」
ざわめきが起こる。
嫌がっていた者たちからすれば、そのような案件を躊躇いなく受ける者の心理が理解できないのだろう。
ただ、当人は周囲の反応など一切気にしていないようで、リベルはにこにこ絵に描いたような笑みを浮かべている。
「いってきまーす!」
リベルは掲げた手のひらを数回大きめに左右に振り、それからすたすたと出口の方へと足を進める。
彼の中には解散を待つという発想はなかった。
彼は彼の中のペースだけに従って進んでいる。
「お待ちなさいリベル、貴方、場所は分かっているのですか?」
「え? 北の森ですよねー? もーやだなー、話くらいちゃんと聞いてますよー」
「そうではありません!」
レフィエリシナが少し調子を強めるとリベルは足を止めた。
「……まだ何かあるんですかー?」
リベルは目を細めた笑顔のままレフィエリシナの方へ面を向ける。
「北の森、だけでは分からないでしょう。詳しい場所について――」
「だいじょーぶですよレフィエリシナ様。相手、魔獣でしょう? 簡単に探知できまーす」
呑気に見えて怪しい光を瞳に宿したリベルを見たレフィエリシナは数秒思考しているような顔をした後に「そうですか」と短く返した。
「分かりました、では、貴方に任せます」
「わーい! じゃ、ささっと片付けてきまーす」
リベルは嬉しそうに広間から出ていった。
レフィエリシナは呆れたような溜め息を小さくこぼした。
広間に残された男たちは徐々に解散し始める――が、彼らの話題はリベルのことでもちきりだった。
「何なんだあいつ、気味わりぃ……」
「そもそも魚人族の血を引いてねえんだろ? 大丈夫かよ」
「噂によれば悪魔の末裔とか何とか……」
「ずっと笑ってるみたいだし、正直ちょっと気持ち悪いよな」
「てかあれで男かよ」
本人がいないということもあってリベルは言われ放題。
レフィエリシナはそのことを少し悲しく思っていた。




