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世界の終わり

作者: 稲葉 鈴

「おはようございます。2054年10月13日朝のニュースの時間です。世界の終わりまであと七日になりました」


 朝起きたらまずはトイレに行って、台所で水を飲んで朝食の支度をする。8枚切りのパンをトースターで焼いて、バターを塗ってかじるだけだ。卵もソーセージもベーコンもいらない。コーヒーだったり紅茶だったりはその日の気分でかえる。今日はコーヒー。ミルクはたっぷり、砂糖はそれなり。

 一人暮らしの広くない部屋だけれど、風呂とトイレが別になっているのが気に入っている。

 玄関から入ったらすぐにある短い廊下の突き当たり、左にあるドアを開けたらミニキッチンで、右手に風呂とトイレ、突き当りにある開きっぱなしのドアの向こうがワンルームの部屋だ。角部屋だから窓が二つあるのがいいのか悪いのか。

 まぁ、自分が気に入っているのだから、きっといいのだろう。

 窓の外もいつも通りだ。目の前の通りにはまばらに人がいたりいなかったりで、少し向こうにある大通りを車が走る音がする。周りの家でも目が覚めたのか、朝食を作る音がしたり目覚まし時計のスヌーズが止められずに鳴り続けていたり、早く起きなさいとお母さんに怒られている声がする。

 隣人と接している側の壁は真っ白で、備え付けのプロジェクターがここにニュースを写し出す。


 そこに悲観はなく、ただ「あぁ、もうそんな季節か」と思わされた。

 パンを咀嚼し、コーヒーを流し込み、着替えて仕事に行く。


「ねえママ、世界の終わりってなに?」

「そういうものよ」


 子供を保育園に預けて出勤するのだろう、隣の部屋の奥さんが子供にそう説明しているところに行き当たった。いや、初めてなんだから説明してあげなよ。そうは思うが、エレベーター前の廊下で会った時に互いに会釈を交わす程度の間柄だと、そんなことを伝えることも出来ない。伝えたら、ただの不審者に格下げだ。

 ある国ではそれは選別だという。善き行いをしたものだけを残し、それ以外を終わらせるのだとか。自分は決して善い行いはしていないのできっとこの国では違うのだろう。

 コンピューターの電源を使い終わったから落とし、必要だからまた付ける。そんな風に大体のひとは思っているのではないだろうか。

 それは恐らく、自分の周りでは一度も終わった人がいないから、だと思う。祖父母は確かに死んだが、世界の終わりで死んだわけではない。普通に病気だった。普通ってのも変な話だが。

 だから特にやっておきたいこともないし、食べたいものもないし、行っておきたい場所もない。

 今日はやっておきたいことのある先輩の代わりに残業して、明日は食べたいものがある後輩の代わりに残業して、明後日は行っておきたい場所のある上司の代わりに休日出勤する。

 前の時となにも変わらない日々を過ごした。悔いがあるかといわれれば特にない。


 そう、特になかった。


 八日目。10月21日。

 いつものように起きて、トイレに行ったら水が流れなかった。台所の水道からも、水がでない。

 世界の終わりの日が過ぎたから、水道が止まったのだろうか。電気は付いているから、冷蔵庫は生きていた。水を取り出して飲む。

 カーテンを開けて窓の外を見た。いつもの通りは人がいたりいなかったりだし、少し遠くにある大通りからは車の音がする。朝食を作る音がしたりいつもとは違う目覚ましの音がしたりした。買い換えたのだろう。そういえば今朝は、さっさと起きろと怒鳴る声がしない。お母さんも寝ているのかもしれない。今日は始まりの日だから、寝坊を許されているのだろうか。

 特段いつもと変わらないように見える。太陽は昇っているし、人は生きている。

 水道が終わったのだろうか。水道を管理している会社の人が? プロジェクターを立ち上げたら分かるだろうか。


「おはようございます。2163年7月19日朝のニュースの時間です」


 廊下が騒がしくなった。

「先生こっちです!」「プロジェクターが起動しています!」

 廊下からそんな声がする。はやくおきなさいとおかあさんにおこられているこえがs


 まず、まずはそうだ。鏡を見よう。終わっていた間、自分に時間が過ぎたのかどうか確認しなくてはならない。

 久しぶりに出来た、やりたいことだ。

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