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ヴェルムはここへきてもまだ自分のしたことがわかっていなかった。そんなヴェルムを助けたのはフィリップだった。その日の夜、フィリップはまたヴェルムを談話室に誘い、学園でヴェルムがどう振舞うべきだったかを教えてくれた。
それは、最初の打診を断られた時点でおとなしくあきらめ、ターニャの知識が必要な時は協力してもらう、というごくシンプルなことだ。また、今のリアムに対する態度もよくない。今のままではリアムは主を見限ったと評価されており、その主は立ち直った後もリアムを許していない。いわばリアムは王族の不興をかった騎士であり、このままでは将来は無い。フィリップとしては、ヴェルムが立ち直ったのだからリアムの方からヴェルムに接触を図るべきだと考えてはいるが、ここではそれは言わない。リアムの自ら離れるという強い諫言によって立ち直ることができた、リアムは真の忠臣だ、また側近候補としてそばにいてほしい、といった内容のことを人目につくところで話し、関係を回復するべきだと話した。
また、ヴェルムはミリアとのことでまだ周囲の信頼を得られていない。精霊石の問題もあるのだろうが、ターニャとだけ関わるのはまずい。研究で必要ならば、様々な出身の生徒を集め、広く意見を聞くようにする方が良い、と最後に忠告した。
ヴェルムは自分はすっかり立ち直ったつもりであったので、かなりのショックを受けた。まず、まだ十分に信頼を得られておらず、ターニャに話しかけているのが、ミリアとの付き合いと同じように見られるかもしれないということが衝撃的だった。ヴェルムには全くそのつもりは無く、無意識下では自分の気付かないことを教えてくれるターニャに対する憧れのようなものがあるのかもしれないが本人に自覚は全く無く、他人からの見られ方というものを初めて意識したともいえる出来事だった。更にリアムのことは、そんなに立場が悪くなっているとは考えもしなかった。それまではずっとそばにいた友人のような、部下のような人間がいなくなっただけ、としか考えていなかった。リアムの将来のことなんて考えてもいなかった。そして、自分が何も考えておらず、フィリップが多くのことを考えていることがショックだった。
「私は本当に何も考えていなかったのだな。それがわかっていたからユーゴ様やサイモン様もあんな態度だったのか…」
「それがわかっていただけたのなら、これから考えるようにすればいいだけですよ。本当は私が言うことを全て受け入れてしまわれるのもよくないのです。ですが、一度誰かが率直に話さねばならない状態でしたので、話させて頂きました」
フィリップは苦笑してそう言い、その日の話は終わりとなった。
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