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サイモンの言葉で一息ついたヴェルムだった。
「ああ、せっかくフィリップ様に紹介してもらったんだ。これから親しくしてもらえたらうれしい」
「そうですね。ですが今日はあくまでも紹介ということで。親しくなれるかどうかは今後次第ということでどうでしょうか」
サイモンも笑顔で、親しくなることを断った。実際ユーゴやサイモンのように将来の任官を見据えて努力している者たちにとっては、ヴェルムとの交友にはうま味がなかった。ヴェルムが優秀さを示し、将来的にどの分野でも長となりうる人物であれば違うのだが、このままでは与えられた領地を経営するだけであろうと思われていた。そのため、必要最低限の付き合いでとどめておきたいというのが周囲の本音だ。ヴェルムはヴェルムで、誰もが王族の自分の歓心を得たいと思っているという思い込みがあり、ユーゴやサイモンの態度はとかく不可解であった。が、自分が求められていないということに面白みも感じた。
「そうか。ではあなたたちと親しくなれるよう私も精進しよう」
ヴェルムのその言葉にサイモンもユーゴも意外だという表情を浮かべた。
「今後ヴェルム様がなされることを楽しみにしております」
そうしてこの日の会合は終わった。
それからは教室でヴェルムもさほど浮くことなく過ごすことができるようになった。そして落ち着いた学園生活を送っていたある日、ヴェルムはベッカー先生に呼び出された。
「ヴェルムさん、この国の精霊信仰について調べていたのですが、面白いことがわかりました」
そしてベッカー先生が話したことは、この土地には昔から精霊信仰が根付いていたが、200年ほど前にこの国を征服したフェンベルグ王国によって、それまであった礼拝所を一度取り壊し、改めて立て直した、ということであった。
「その時にどうも信じる対象となる精霊の名が変わったようなのです」
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