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「まあ、刺繍だけするような仕事はないと言われたんだが、砦で働く女の人もいるらしい」
父親が聞いたところによると、砦では兵士の生活を支えるための使用人が何人かいるらしい。食事の支度や洗濯などは、その人たちがしている。だが、騎士になるかもしれない男性が多くいるところに使用人を募集すれば、結婚相手を探している女性が応募してくることは当然である。そうした女性が多くいれば砦の中で規律が乱れることになる。故に使用人は募集していない。だが、目標をもって頑張らんとする人間を応援することは砦の方針でもある。だから、本当にやる気のある子供ならば見習いにしてもいい、とのことであった。
「実際の仕事はほぼ食事作りと洗濯になるらしい。あと、洗濯した物にほつれとかがあれば繕いもするそうだ。そして、砦では王立学園を目指すための授業があり、書庫もあるらしい。余った時間があればそこで勉強してもいいそうだ。」
「王立学園って、お城で働く人が行くためのとこだよね?」
「砦では兵士になる訓練をしてるらしいが、その中でも優秀だと王立学園に行って騎士様になる勉強をさせてもらえるらしい。この国は本当に優秀なら取り立ててもらえるからな。それで、父さんが聞いたところによると、王立学園には『しゅくじょか』というのがあって、そこでは刺繍を習えるらしい」
「『しゅくじょか』って何?」
「それは父さんにもよくわからん。だが、ターニャが刺繍を勉強するなら、これが一番いいと思う」
「よくわからないのに?」
「考えてもみろ。この年からレスコー商会に見習いに行くのは無理だろう。ほかの店にしたって大きいところは同じようなものだろう。そうしたらあとは村長のところで自分で勉強するしかない。王立学園で刺繍の勉強ができるというなら、お城でも刺繍をするような仕事があるのかもしれないじゃないか。仕事をしながら学園を目指す勉強をさせてくれるならそれがいいと思うぞ。砦なら住みこみで衣食住の面倒もみてくれるしな」
「まあ、母さんも砦に行くことは賛成だね。このまま村にいたらターニャはマルクのとこに嫁入りさせられるだろうよ。ターニャ以上に頑張り屋でいろいろな仕事ができる子はいないからね。もちろんターニャがマルクを好きならそれでもいいと思うけど。ターニャはどうなんだい?」
「…私は刺繍をしたいんだよ。マルクが好きかどうかなんて考えたこともない。でも、父さんや母さんがそう思うなら、私は砦に行きたい。下働きだったら村での仕事とそう変わらないだろうからできると思うし。王立学園なんて考えたこともなかったけど、きちんと勉強させてもらえるって、すごいよね。私、頑張るよ」