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「ターニャの見習い先についてだが、父さんが考えているのは砦の下働きだ。」
このあたりで砦と言えばヴァルド砦のことである。ターニャの暮らす村から馬車で一日の距離にある。広い森の入り口にあり、この森を抜けると隣国である。
そのため、森の獣や国境を守るための拠点としてヴァルド砦がある。国境とはいっても、この森を抜けるルートは獣が出ることと、森の中の道が整備されていないことから交易路としては使われていない。この森を抜けようとする者は隣国への急使か訳ありの人間である。したがって、この砦の役割としては国境警備よりも新人育成に重点がおかれている。
ヴァルド砦があるのは獣の出る森の入り口である。交易路からは外れている。結果として、ヴァルド砦の周りは街らしい街がない。砦の中で彼らの生活は完結している。そのため、村の者たちにとって砦とは「たくさんの騎士様がいるところ。騎士になりたいという無謀な少年が目指すところ」くらいの認識だった。
実際、村の生活が合わないからといって村を飛び出し、砦で働かせてもらおうとする少年もたまにはいる。砦の方でもやる気のある人間は受け入れる。だが、大抵は訓練に少し参加しただけで、逃げ帰ってしまう。村に継げる畑があればなおさらである。
もっとも、そういった少年たちは見習いとしてある程度の年数を村で過ごし、10代になってから、砦に向かう。村から行く場合は今の仕事に不満があって砦を目指すが、大抵の者は始めから兵士、できれば騎士を目指す。街の警備隊などで見習いとなり、見込みのある者が砦で訓練を受けられるようになるのだ。そして、有望な者は王立学園への推選をもらい、騎士への道も拓けるのである。街の子供たちだけでなく、継ぐ爵位のない下位貴族の次男三男も多い。だが7歳から砦に行く者は基本的にいない。そもそも、砦で働く女性というものの存在が村では知られていなかった。
「砦で見習いとか採ってくれるの?」
「ターニャはお貴族様の着るようなドレスとかを作りたいんだろう。ここいらからお貴族様に関わろうと思ったら、砦から王立学園へ行くしかないだろう。だから、女の子でも働けないか、村に砦の騎士様が来た時に聞いてみたんだ。刺繍の仕事はありませんかってな」
普通に考えて、兵士の訓練施設にそのような仕事はないだろう。だが村ではできないことをやりたいのであれば、砦位しかないのが現実だった。村長の家で働くこともできるだろうが、それは挫折して村に戻ってきてからでもいいだろうと思われた。
切りが悪くてすみません…