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ミリアはターニャをしばらく見つめ、真剣な口調で尋ねた。
「ターニャはどういう道を選んだの?」
「私は刺繍をしたかった。いろいろな刺繍を見たかった。それは私の生まれた村ではできないことでした。だから、村を出ました。今思えば、そのために多くの方にお世話になりました。今ではそのお世話になった方々に誇りに思ってもらえるようになりたいと、そう思っています」
「それは、刺繍はもういいということ?みんな、ターニャが刺繍をできるようにと応援してくれたのに?」
「刺繍をしないというつもりはありません。ただ、刺繍さえできれば何でもいい、とは思えません。私はただ言われたとおりに刺繍するだけ、というのはもう満足できないのです。自分で考えて、工夫することが楽しいのです。でもそうなると、ただの針子になってしまったら意味がないでしょう?満足できない職に就くために応援してくださった訳ではないのですもの。ですから、私は自分が満足できる職に就けるよう、自分の価値を高めているのです。私よりもミリア様はご自分の道を決められているのですか?」
ターニャは現時点では王城で高貴な女性に仕える侍女になりたいと考えていた。信頼される侍女であれば、主の衣装を決める際にどのような意匠にするか意見を述べることができる。ただ、現時点でその希望を明確にするのは避けたかった。はっきりとした理由があるわけではないが、目標を明確にしてしまうと、それ以外の道が閉ざされてしまうような感じがしていた。だから、自分の目標は濁して、ミリアのことを尋ねた。
「私は父に引き取られたときに『家のためになる結婚をしろ』って言われてるから」
そう言うミリアは少し寂しそうだった。
「では、家のためになりさえすればどのような結婚でもいいのですね?」
「まあ、そうなるのかな。でも、家のために、ってことは家格が上の相手をつかまえろ、ってことでしょ?」
ミリアはしょせん貴族の女性は家のための駒でしかないのだと感じていた。自分を引き取った父にも実際そのようなことを言われていた。ただ、駒であっても周囲の言いなりにはならない、最高の相手を自分で探してやる、と意気込んだ結果が空回りしていたのである。
「家格にこだわらず、何かしら家のためになると思えることがある相手なら、それで十分ではないですか。ミリア様がこだわるのは家格だけなのですか?」
「でも、今までが今までだから、もうどんな相手でも無理じゃない?」
「そんなことはありません。今日がいいきっかけです。明日から変われば、その変わり方次第で今までとは全く違う評判になりますよ」
会話文ばかりですみません…。地の分が書けないんです…。




