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ヴェルムは平民についてはそれなりに知っているつもりになっていた。もちろん情報源はミリアである。


「当然知っている。ターニャ嬢こそ、どちらの家の令嬢か知らぬが、平民のことをもっと学んだ方がいいのではないか」


ターニャはあきれてしまった。王族の情報収集能力はどうなっているのか。まあ、ヴェルムの能力を見るためにある程度放置されているのだが、そんなことはターニャの知ったことではない。


「私がどちらかの家の令嬢だとおっしゃるのですか」


実際ターニャはマナー講座で学んでいるために貴族家の令嬢として遜色ないマナーを身につけている。ミリアの態度を普通の平民と考えていれば、ターニャが平民だとは思いもしないだろう。ターニャの落ち着いた様子に、ヴェルムは更に苛立ったように言いつのった。


「そのような落ち着いた物腰、所作、幼き頃より貴族としてのマナーを学んで来たのであろう。ミリアは実家に引き取られてからの1年しか、貴族としての所作を学んでおらぬのだ」


だから仕方がないだろう、平民は貴族とは違うのだ、という理屈である。だが、その理屈を認めることはターニャにはできなかった。それを認めることは平民に広く門戸を開く、この学園のあり方に背くことだ。ターニャは呆れた様子をもう隠そうともしなかった。


「私がこのようなマナーを学び始めたのは半年前でございます」


ヴェルムとミリアは何を言われたか一瞬わからなかったようだった。


「は、半年?」


「はい。令嬢のようだとおっしゃって頂き、ありがとうございます。私はもともと農村の出身でございます。この半年のマナーの講義で、貴族の方の御前に出ても恥ずかしくない程度の所作を学びました」


まあ、砦で多少のマナーも学んでは来たが、今はそこまで言及しなくてもいいだろう。わざわざ自分のことを詳しく教える必要はない。それに砦で学んだことなど、この半年の講義に比べれば児戯に等しい。ヴェルムは往生際悪く、


「そ、それは、其方は特別に優秀なのだろう」


と反論した。ターニャはがっかりした。平民とはそこまで能力が低いと思われているのだろうか?


「そのようにおっしゃっていただくのはうれしゅうございます。ですが、私、申し上げましたよね。この学園は“広く”平民に開かれていると。この学園では、実に3割近くが平民の出身です。ですが、ミリア様と同じような振る舞いをしている者がおりますでしょうか。また、かつていたという話でも聞いたことがおありですか?」


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