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淑女科の平民の女生徒は少ない。ファビエンヌはまず親しくなっていたターニャに相談した。平民では男女の距離があのように近いのが普通なのか、と。ファビエンヌは当然肯定の返事が返ってくるものと考えていた。が、ターニャの返答は予想外のものだった。
「少なくとも村ではあのような態度をとる女性はいませんね。そもそも村の人間は皆知り合いです。赤ん坊の時からこの娘はあそこの息子とちょうどいいだろうなんて言われて育つのですよ。決まった相手以外に媚を売るような真似をすればすぐ噂になって村にいづらくなりますし…。もっとも街で育った方はどうなのかわかりませんので、その点に関しては他の方に尋ねてみてくださいませ」
平民は結婚は自由であり、好きになった者と恋愛結婚するものだと考えていたファビエンヌには驚きだった。
更にターニャは続けた。
「ただ、ミリア様は本当にマナーを知らないのでしょうか?」
淑女科ではマナーの授業がある。事前にマナー講座があったが、それは学園内で困らないようにするための講義である。いわばまだ一人前ではない子供の範囲である。授業は大人の女性として必要な実践的なものになっている。女性当主として、当主夫人として、王族女性の侍女として、それぞれの振舞い方を教わる。実践に関して細かく注意はされないが、どのような振る舞いが正しいか判断できることが要求される。その授業において、ミリアは劣等生である。多くの女生徒が普段の態度からそれを当然のことと認識していた。しかしターニャは、ミリアが注意される内容は普通のものである、と認識していた。つまり、ターニャにとっての普通のレベルで、ミリアはマナーを身につけているのである。ターニャは事前のマナー講座でそれ以上を身につけたに過ぎない。だから、
「ミリア様は、普通の低位貴族のマナーは身につけていると思います」
「いえ、そんなはずはないでしょう。マナーを身につけているのならばあのような態度を取っていられるとは思えないわ」
「では、あえてあのような態度をとっているのでしょう」
「あのような態度を取っていては自ら将来を閉ざしているようなもの。あえてそのような態度をとる理由がないでしょう。愛人狙いというのいうのであればともかく、学園に来られるだけの能力を持っているのに、そのような立場に立とうとするものかしら?」
「そうですね…。私、ミリア様には紹介されていないので本来でしたら話しかけられないのですが、そのようなことにこだわる方ではないようですね。私からどういうつもりなのかお尋ねしてみましょう」
やっとここまで来ました。来週は「平民育ち~」と重複する内容になるかと思います。




