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入学式は大講義室で行われる。新入生は前日までに入寮しており、寮から科ごとにまとまって入室し、指定された席に着く。寮から出るまでは親しい者同士で話すこともできたが、一列に並ばされ移動する間は人と話すことも難しい。会場についてからは隣が知り合いならば多少話すこともできたろうが、ターニャは一番で端であり、反対側の隣も知人ではなかったので話しかけることもできないでいた。
知人ではなかったが、その女性はターニャが事前に詰め込まれた知識からすると公爵家令嬢のファビエンヌ様であった。故にマナー上、身分が下のターニャは話しかけることができない。自分がファビエンヌ嬢より上位に置かれている理由を知ってはいたが、周囲にどう思われるかやきもきしていた。
ターニャは前日にラブレ先生に1人だけ呼び出され、この順位について説明を受けていた。
「この学園では入学後の名簿は国に貢献している順番で作られています。そのことは普通は明言されません。名簿の順番がどのように決まるかを考えることも学びのひとつだからです。ですが、あなたが例年にない状況を生み出してしまいました。この順番のつけ方をあなたが納得していないと、学園での生活に支障をきたすと判断し、説明することになりました」
「名簿の順番ですか?」
「そうです。ターニャは淑女科の中で1番なのです」
「1番ですか…」
「そうです。そしてあなたの次がノワール公爵家のファビエンヌ嬢になります」
「私がファビエンヌ様より先なのですか?」
「そうです。順位はまず爵位保持者、そして国に仕える者、領地のために働く者、そして貴族の子弟、貴族に仕える者、民間で働く者、平民の子弟、となっています。淑女科では貴族の家で働いている者が入る例もありますが、多くは貴族の子弟です。ですから淑女科では、名簿は家格の順だと思われることが多いのです。そこでファビエンヌ嬢より上に置かれているターニャはいろいろと苦労するかもしれません。ですが学園は砦で働きながら、さらに学園で学ぶことを推薦されたあなたを評価しているのです。そのことを知っていてほしいと思い、ターニャにだけ説明することにしたのです」
「私はそれほど大した仕事をしていたとは思えないのですが、公爵家の方より平民が上になってしまうのですか」
「砦で実際に騎士見習いとして働く平民と、家で自分のための稽古をするだけの貴族の令息と、どちらを国が評価するか、ということを考えればわかるでしょう。今後、淑女科のどなたかが王子殿下の婚約者などになられ、公務をするようになればその方が当然上位になります」
確かにそう言われれば納得せざるを得ない。だが、ファビエンヌ嬢がどう感じているかがわからず、悶々としてしまうターニャであった。
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