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それから、マナー講師のラブレ先生による講習は大変だった。
「これらのマナーは上位貴族の令嬢であれば幼い時から気を付けるよう言われ、身につけるものです。あなた方は今までの癖を捨てるところから始めなくてはいけません。しかし、幼い子供が言われるままに身につけるのと異なり、理性ある年齢の者が理屈を知って身につけるのならば、決して無理なことではないでしょう」
そう言われてしまえば反論はできないが、ターニャも、共に受講する仲間たちも心の中では
(理屈を知ったからといってすぐできるものではないのに)
と悲鳴を上げていた。頭の上に厚みのある本を乗せられて歩く練習とか、カーテシーをした状態をずっと維持する練習とか、嫌がらせか!と言いたくなってしまうくらいきつかった。また、講義期間中は昼餐や茶会が用意され、細かいマナーまで身につけさせられた。初めての食事マナーの講座の時は、出された食事を見て、
(なんて素晴らしい講座なの!)
と思った。だが、カトラリーを手にするや否や
「持ち方が優雅ではありません」
と注意され、結局食べ物が口に入る前に全て冷えてしまったのだ。皆がっかりしたのだが、
「次は温かいうちに食べられるよう頑張ってください」
と言われ、次こそは、と頑張るのだ。生徒のやる気を引き出す方法が巧みである。また、この時ターニャは昔からの習慣で
「精霊に感謝を」
と食前に唱えた。珍しがられたが、そうした風習の地方もあるのか、と軽く受け止められた。
茶会の講習では、紅茶の味の違いなぞ、ターニャは全く分からなかったが、
「あなたはこの銘柄が好きです。そういうことにして学んでいきましょう」
と言われ、他の銘柄との違いを意識することで味の違いも感じられるようになっていった。
「これが最高に美味しい紅茶なのです。この味を覚え、この味のお茶が淹れられるように練習しなくてはいけません。淹れる練習は入学後の講座でもありますが、『何が美味しいのか』はわかるようにしておいて下さい」
確かにターニャにはどれも美味しく感じられた。目指す味がわからなくては努力のしようがない。この事前のマナー講座のありがたさがひしひしと感じられた。それにしても下級貴族や平民である自分たちが、こうした上級貴族のマナーを身につける必要があるのか疑問に思うこともあったが、
「王宮で侍女として働くからには、仕える方のあるべきマナーを知らなくてはなりません。招かれたとき、適切なもてなし方をされているか、招いた時適切なもてなしができるか。知識のない使用人は侍女ではなくただの下働きです。言われたことさえできればいい、というのは二流の人間です」
と言われれば、なるほど、そんなものかと納得した。
そんな厳しい講座を受けていれば毎日はあっという間に過ぎていく。気づけば入学式は目前で、半年のマナー講座も終わりを迎えようとしていた。




