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ターニャは毎日石板に文章を写し勉強していたが、石板の文字は毎日消さなくてはならなかった。せっかく本を写しても、その日の勉強が終わったら消さなくてはならないのがもったいなかった。以前の内容を確認したくてもできないことがもどかしかった。木の板に炭で書くこともできないことはないだろうが、木は貴重な燃料だ。炭はもっと貴重であるし、結局こすれば消えてしまう。


また、勉強を頑張っていると縫物の練習をする時間が無いことにも、焦りを感じていた。そこでターニャが思いついたのが、その日に習った文章を布にステッチすることだった。


とはいえ、ターニャの家にはそれほど余計な布があるわけではない。色のついた糸が余っているわけでもない。結果的にターニャの唯一のぜいたく品と言える刺しゅう入りの袋に拙い文章が切れ切れにステッチされることとなった。だが、そんなもので思うように学習が進むわけがない。刺繍の仕方も見よう見まねの我流のものだ。こんな状態でも見習いにしてもらえるのか不安に感じながらも、私はこれだけ頑張っている、と自分を慰める日々が続くのだった。



実際、ターニャがレスコー商会に採用してもらえると考えている者はターニャの周囲にはいなかった。


村長の家では、見習いになる前から読み書きを習いたいという意欲のあるターニャに目をかけていた。縫い物が好きで、いずれ村長の仕事を手伝うこともできるようになるのであれば、マルクの嫁にしても良い。そこまでいかなくとも、使える人材になることは間違いない。刺繍がしたいのであれば村長が仕事で村の外の人間と会う時の一張羅に刺繍すればよいのだ。将来、村長の妻となり村のために尽くすのであれば、ターニャのために刺繍の見本帳を仕入れてもいいとまで考えていた。



ターニャの両親は7歳の子供を1人で王都に働きに行かせるつもりはなかった。かといって村の生活を捨てて家族で王都に移住するつもりもなかった。たとえ移住したところで、村育ちの田舎者が都会の大店に行っても、まともな挨拶ひとつすることもできないだろう。母親がレスコー商会のお抱えの織り子というならともかく、取引先の村の織り子の1人、というだけでは縁を伝って頼むという訳にもいかない。ターニャができる限りの努力をし、それで無理とわかれば次善の道を選ぶだろう。そう思っていた。だから、両親はレスコー商会以外で、ターニャが刺繍を仕事にできる職場がないか考えていた。




そうこうしているうちに、また商人のやってくる季節が来る。




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