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マナー講座は下級貴族と平民とが一室に集められて始まった。ターニャは時間より少し早めにソフィと一緒に会場に行った。広めの教室は半円のすり鉢状のようになっており、一番下の部分に教卓があり、そこを囲むように階段状の聴講席があった。初日はマナー講座に関する説明だけなので、何も持たずに来るようにと指示されていた。
会場では知り合い同士で固まって座っているようだった。ターニャとソフィは会場を見渡したが、圧倒的に男性の方が多く、女性は隅の方に2人いるだけだった。そちらに向かって歩いていくと、相手も気づいたようで、軽く会釈をしてきた。その後、また2人の女性が加わり、淑女科からマナー講座に参加するのは6人だけであった。互いに自己紹介をしているうちに講師が教室に入ってきて、早速講義が始まった。講師は年配のがっしりした体つきの騎士風の男性だった。
「フェンベルグ王立学園にようこそ。私はマナー講座を担当するミシェル・グランジェだ。グランジェ先生と呼ぶように。このマナー講座は、マナーを学ぶだけではない。まずは、なぜマナーを学ばなければならないかを説明する。今日は持ち物はいらないと連絡されているが、正確にはこれから話すことは書いて残すことは許されないため、筆記用具の持ち込みが禁じられている。これから話すことはここだけの話とするように」
いきなり衝撃的な話を聞かされ、多くの生徒が驚いていた。そんな中で、まずは学園の目的が明かされていった。
「王立学園であるからには、王国の為にならねばならない。平民にまで門戸を開いている理由としては、広く優秀な人材を確保する為と表向きはしている。確かにそういった面もあるが、本来の目的は家の派閥にとらわれない人材の確保だ。気づいていると思うが、寮の部屋には必ず上級貴族が入っている。それもこちらで把握できる範囲で、家の利害関係のない者と同室になるよう配慮している。これは、家の関係で圧力をかけられた時のためだ」
つまりは、利害関係のある家の人間から圧力をかけられたとき、表立って反抗することは難しい。だから相談できる人間を作れ、ということである。
「万が一部屋の先輩が頼りなければ、同級生の伝手をたどってでも相談できる相手を作っておけ。これは君たちが将来王宮で働くようになった時こそ役に立つはずだ。上級貴族にとってはこの学園でどれだけそういう伝手を持てるかも見られている。誰もそんなことは教えないが。また、生徒同士は名前に様付で呼ぶ規則になっているのも、身分に関係なく学ぶことができるようにという理由だとされているが、それはあくまでも建前だ。身分を盾に無茶を言うような人間は既に下級貴族の親戚などには顔をつないでいるはずだ。そんな奴に逆らうのは難しいだろうから、今のうちに頼れる奴を見つけておけ。君らが半年早く入寮しているのはそのためだ」
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書く量を増やしたいとは思っているのですが、調子に乗るとかえって失速しそうなため、もうしばらくこの遅さにお付き合い頂ければと思います。
頑張ってストックをためているところです。




