表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/169

33

ターニャが選んだのは深みのある艶やかな藍色の布。それに光沢のある薄い灰色の刺繍糸。その光沢からいっそ銀色とも言えるような糸だ。冬の夜空のような生地の上に銀色の雪の結晶を刺す。使う技法は基本のバックステッチ。大きさの異なる三種の雪の結晶のモチーフを美しく配置して刺していく。


技巧的な手法ができないわけではないが、これは試験であり、時間は有限だ。ハンカチ程度の小品に技巧を凝らしても大して印象には残らないだろう。第一これだけの布と糸があるのだ。小品なんてつまらない。どうせなら極彩色の作品を作ってみたいが、色を確認しながら、糸を頻繁に変えるのは時間がかかる。たとえ基本のステッチだとしても、ある程度の大きさの物に美しいデザインで一面刺してあれば、基本の技術の確かさと美的センス、芸術面での能力を評価してもらえるはずだ。


ターニャは試験ということをつい忘れてしまいそうになるほど、この刺繡を楽しんだ。小さいモチーフは砦でも袖口や裾周りに刺したことがあるので慣れているのだが、大き目のモチーフは慣れていない。それを刺すのは慣れないもどかしさがあった。


だが、4,5個も同じモチーフを刺せば慣れてくる。試験3日目、芸術の試験初日も半日を過ぎるころには、ひたすら楽しい作業と化していた。


そしてその日の夜に、口頭試問の試験が翌日の午後になったと知らされた。ターニャは楽しみに水を差された気分になるのだった。


ターニャは翌日も午前中は刺繍を楽しんだ。午後に何があろうとも、刺繍をすることは楽しいのだ。それにこの作品を作ることは試験なのだ。気もそぞろになって失敗するようなことはできない。そして午前中のうちに作業の8割ほどを終わらせて、午後の試験に臨むのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ