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ターニャは試験まで5日ほどを寮で過ごした。王都に住む者は試験の前日に来る者が多い。しかし何日も旅をしてくる場合、余裕をもった旅程を組んでるのが普通だ。ターニャと同じ時ころに到着した受験生もそれなりにいた。ただ、淑女科を受験する者は王都に住んでいる者が多いようで、ターニャは試験前日になるまで淑女科の受験生と会うことは無かった。代わりにアネットを始めとする同室の者にいろいろと教えてもらった。
「身分がわかるような呼び方が禁止され、対等の態度が許されるとなると、知り合いではない方の身分を知ることは難しいですよね?でも学園にいる間に多くの方との関わりを持ち、卒業後に生かすと聞きました。皆様どうされているのでしょう?直接お尋ねするのは失礼なのですよね?」
「直接尋ねるのは無粋とされますね。そうした情報を手に入れる技術を身につけることもこの学園の目標のひとつなのですよ」
「…それは、私が聞いていいことだったのでしょうか」
「教えてくれる人と出会うのも学園の課題のひとつとも言えますね」
「わたくしはとても運が良かったのですね」
「そうとも言い切れませんね。こうしたことを話題にするかどうかは入ってくる方しだいですから」
「淑女科を受ける方は王都にお住いの方が多いですから、受験前からこれほどお話しすることも少ないのですよ」
「そうですね。わたくしが受験した時は試験前日の午後に来ましたから、同室の方とも必要なことしかお話しできませんでしたわ。王都にお住まいの方も早くに来られた方がご本人のためになるでしょうに」
「そうした情報は出回っていないのですね」
「まあ、親兄弟が在籍したことのある方でしたらそれなりに情報はお持ちでしょうから、早くに来る必要はそこまでは無いでしょうね」
「必要性はなくとも先輩方と知り合ってから受験に臨む方が落ち着いて取り組める気がしますわ」
「そうした面は確かにあるかもしれませんね」
そして入学試験の日が来た。




