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王都へ向かう荷馬車の旅は5日ほどかかった。ターニャにとっては初めての長旅だった。
初めのうちは見る物全てが物珍しく、はしゃいでしまった。が、3日目にもなれば旅の疲れもあり、ほとんどの者が押し黙っていた。そうでない者は学園や王都がどのようなところか話したり、試験勉強の見直しをしたりしていた。
そうして着いた学園は王都のはずれにあった。試験は数日にわたって行われ、更にその後に合格発表となる。そのため受験しに来たものは皆学園に着いた順に寮の部屋が割り振られ、発表までそこに滞在することになる。
「ようこそ、フェンベルグ王立学園へ」
部屋に入った途端、声をかけられてターニャは驚いた。試験中ずっと滞在する部屋と言われ入ったので、そこにいるのは自分と同じように学園を受験しに来た者だと思っていた。だが、そこにいたのは明らかに自分より2,3歳は年上の女性だった。聞けば寮は8人部屋であり、1年次・2年次・3年次の学生が2人ずつ入るとのことだった。2人分余るが、そこは卒業後と受験生、入学前の生徒が入るための分なのだ。
寮の部屋はすべて同じつくりである。男女で建物は違うが、身分による違いはないとのことだった。部屋は共有部分とベッドのある個室部分とに分かれていた。共有部分はターニャが村に住んでいたころの家位の広さがあり、個室部分はベッドと小さなクローゼットと勉強机が置かれたこじんまりとした空間だった。
「入学試験が終わるとあなたたちの部屋割りはまた変わってしまうから、あなたがこの部屋で暮らすのは10日足らずでしょうけど、よろしくね。わたくしはアネットというの。あなたのお名前は?」
「私は、あ、わたくしはターニャです。よろしくお願い致します」
「ターニャね。ここでは基本的に家名は名乗らないの。だからみんなファーストネームで呼び合うのよ」
「そうなのですね。ではアネット様?それともアネット先輩とお呼びすべきでしょうか?」
「ふふ、先輩っていい響きね。でも様付で呼んでちょうだい。ここでは呼び方で身分や年齢がわからないようにするのよ」
「そうなのですか?それでは知らず知らずのうちに何か失礼をしてしまいそうで怖い気がします」
「学園は爵位に関わらず、対等な振る舞いが許されているの。気にしなくても大丈夫よ」
「それは学園の中だけですよね。卒業後に取沙汰されたりはしないのですか?」
「あらあら。そうねえ。それは入学が決まってから教わるといいわ」
「かしこまりました。どちらにしろ、この学園に来る方は皆わたくしより上の身分の方ばかりです。自分の取るべき態度は変えようがありません」
「ふふ、あなたなら絶対に受かる気がするわ。合格後も同じ部屋だと楽しそうね」




