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ターニャとミシェルが話してわかったことは、街は子供が多いため、家を出て仕事を探さなければならない子供が多いが、逆に言えばそれだけ自分の望む職に就く機会も多い、ということだった。逆に言えば村は子供の数が多くはなく、選好みをしなければ仕事に困りはしない。
「村は子供が少ないのか。不思議だな。街と同じくらいいてもよさそうなのに」
「精霊のご加護のおかげでしょう?街の子どもが多いのはそれだけ精霊が期待してるからじゃないの?」
「精霊の加護って村じゃそんなもん信じてるのか?迷信だろ?」
「信じられない。精霊のご加護を疑うなんて」
「ターニャにとっては精霊の加護は疑うものじゃないんだ」
「私だけじゃないよ。村で精霊の加護を疑う人なんていないよ。加護が強かったマーラばあちゃんは精霊様にお願いすることで火を点けることもできたんだから」
「何だって?」
「嘘だろ?」
荷馬車の中でターニャたちの話をなんとなく聞いていただけの者も、全員がターニャの言葉に驚いていた。そして、その反応にターニャも驚いた。
「え、もしかして街では加護が強い人っていないの?」
「そんなことはできないっていうのが常識だ。そういうときは火付け石か魔術具を使うものだろう?」
「魔術って精霊様の魔法とは違うのよね。加護が弱くても精霊様にお願いするための方法だと思ってたんだけど、少し違うのかな?」
「とにかく街の常識と村の常識が違うということは理解した。ターニャもそれは押さえといて、あんまり常識はずれなことは言わない方がいいぞ」
「でも指摘してもらわないと何が常識外れなのかわからないよ…」
「ま、まあ、学園の生徒はいろいろな場所から集まってくるから、ターニャと同じ常識を持つ奴もいるかもしれないよ」
「まあ、今さらどうにもならないわよね」
まさか自分の常識が仲間の非常識だったとは思いもよらず、先行きに不安を覚えるターニャであった。
「でも何でそんなに違うんだろうな」
ミシェルは興味が尽きないようで、その話題から離れたくないようだった。
「魔方陣を使わない精霊魔法か。魔方陣がないと魔術を使えない魔術師にとっては夢だよな」
「ミシェルは魔術に興味があったの?文官志望じゃないの?」
「文官になれば食いっぱぐれない。魔術は夢だ。男のロマンだ」
「ああ、なるほどね」
砦から学園を目指す者たちは誰もが堅実な職を求めているのだ。




