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砦から王都へは荷馬車に乗って進んだ。騎士たちは騎乗で向かったが、学園を受験するための見習いたちは荷馬車での移動だった。砦にある馬車は儀礼的な時にしか使われず、見習いが乗れるものではなかった。また、今回ヴァルド砦から受験する12名も乗せられるだけの馬車もなかった。
馬車の中では泣いてしまっているターニャを慰めるのに皆必死になっていた。ターニャには、メラニーやミレーネをはじめとする砦の女性陣との永遠の別れと感じられた。メラニーたちは次に王都に行くときにターニャと会うつもりでいた。が、ターニャは知る由もなく、二度と会えない寂しさに涙が止まらなかった。
「いい加減泣き止んでくれよ。俺たちだっているんだから、そんなに泣かなくてもいいだろう」
ぶっきらぼうに声をかけるのは今まで共に学んできた仲間の一人のミシェルだった。王都の平民出身で、王宮勤めの官僚になりたいがために砦に来た、という変わり者だ。とは言え、そのように考えて砦に来る者は少数ながらいる。ただ、その多くは騎士としての実技を身につけることが負担となって挫折する。砦からの受験はターニャ以外はみな騎士科だが、基礎課程である1年次が終わり、本科である2年次に進学する際、転科することも可能である。
「ミシェル、そんな言い方しなくてもいいだろう。こんな時は泣きたいだけ泣いたらいいじゃないか。下手に止めようとする方が止まらなくなるぞ」
ミシェルに声をかけたのはクレマンだ。本人曰く貧乏男爵家の長男で3人の弟妹がいる。一番上の自分が、まず稼げる職に就くため騎士を目指すと常日頃公言している。弟妹がいるせいか面倒見がよく、同じ年齢の仲間の中でも兄的な存在である。
ターニャも泣きたいだけ泣けばいい、と言われると却って涙が止まってしまった。
「みんな、ごめんね。なんかミレーネさんとかにもう会えないと思ったら、なんか寂しくなっちゃって。入学できたとしても私だけは寮も科も違うし…」
話していて、またターニャは悲しくなってしまった。
「科は違っても最初の基礎課程では共通の授業も多いんだろう?特に入学前のマナー講座は絶対一緒だぜ。平民出身はそんなに人数が多くないんだ」
「そうなの?なんでミシェルがそんなこと知ってるの?」
「騎士のマルコー様に聞いたんだよ。あの人も平民出身だろ?マナー講座のこと聞いた時に平民は一クラスにまとめられて受けるって教えてくれた」




