19
ヴァルド砦の見習い兵士は午前中に基礎訓練を行い、昼食後に学習時間を設け、その後に鍛錬の時間を設けている。学習時間と言っても講義形式の授業があるわけではない。どちらかと言うと自由時間の色合いが濃く、学習時間ではなく昼寝の時間だと認識している者もいるくらいだ。
しかし、騎士を目指す者は王立学園を目指すわけで、そのための学習には必須の時間である。砦で働くためだけであれば不要な知識を学ばせてもらえるのである。時間いっぱい学ぼうと努力する者の方が多かった。特に爵位の低い貴族家の次男以降は、真剣に学んでいた。高位貴族であれば、家庭教師を雇って学園を目指すことができるが、彼らはそういうわけにはいかない。騎士爵を目指して自力でつかんだ伝手である。真剣に取り組むのは当然だ。
どちらかと言うと平民出身の者の方がのんびりとしている。彼らにとっては砦に来られただけで大出世だ。平民は初めの奉公先でまじめに働き、それなりの教養を身につけないと砦には来られない。それに対して貴族階級出身であればそれなりの口利きさえあれば砦に見習いとして入ることは容易い。もっとも簡単に入れるがゆえに兵士としての質で言えば平民出身者の方がいい面もある。何しろ貴族出身の中には、砦を学園に行くための私塾程度にしか認識していない者もいる。もっともそういう者ほど砦での鍛錬についていけず、学習時間が昼寝の時間と化してしまうという面もある。
そんな見習い兵士たちの学習時間にターニャも共に学習させてもらえることとなった。といっても、学習時間とは、ほぼ自習時間である。各自が自分に足りないものを考え、必要なことを自分で学ぶ。自分でわからない時に助言してもらうためにいるのが教師である。それが砦での「学習」だった。




