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メラニーはため息をついた。あんなに簡単に伝えたのではターニャが誤解しても仕方がない。
私室にターニャと、補佐としてミレーネを呼び入れ、くつろいだ雰囲気で話そうとした。だが、ターニャは自分が未熟すぎたのではと不安になってしまい、くつろぐどころではない。
「まず、これだけはわかってちょうだい。ターニャには何も不足はないわ。ターニャのせいではなく、ここが砦だから、若い女の子が住むにはふさわしくないのよ。そうねえ、サラたちから聞いた感じだと、途中で仕事を変えるってことは、ターニャにとっては仕事ができなくて辞めさせられる、と感じられるのかしら?」
「はい、違うんですか?」
「全く違うわ。そもそもターニャは学園を目指してると聞いていたのだけれど、違うのかしら?」
メラニーがターニャを見ると、なぜ学園の話になったのかわかっていなかった。
「ターニャ、そもそもあなたは学園のことをどれだけ知っているのかしら」
「え、刺繍を教わることができるんですよね。後は、あの、騎士様になるためには学園に行かないといけないって、村では言われていました」
「そうよ、それで?」
「あの、それだけです…」
メラニーもミレーネも一瞬呆気にとられてしまった。それだけの情報を頼りに、この子は親元を離れて奉公に来たのか。思い切りがいいと言えば聞こえはいいが、ひとつ間違えれば単なる無謀である。砦にそれだけの信頼があったということであろう。妙な所に奉公に行くことにならずよかったと胸をなでおろし、学園について説明することにした。
フェンベルグ王国では王宮で働くためには王立学園を卒業していることが望まれる。12~3歳から3年ほど通い、その後2年ほど実地で見習いとして働き、正式に勤めることができる。学園には文官となるための経営科、騎士となるための騎士科、魔術を学ぶ魔術科、女官を目指すための淑女科がある。この淑女科ではドレスを飾るためだけではなく、様々な意味の込められた意匠の刺繍を施すための技術を学ぶ。
「そのための足ががりとして砦に来ていると思っていたから、当然5年で砦での奉公は終わりだとわかっていると思っていたわ。いつから学園に行けるかもわかっていなかったのなら、心配して当然ね」
ターニャは自分が何も考えてこなかったことに気づき、恥ずかしかった。
「私、砦さえ行ければ何とかなるように思ってました。つまり、5年後には私は学園に行かなきゃいけないんですね」
「そうよ。ただ、学園に入るには試験を受けなくてはいけません。もし受からなかったとしても、砦の風紀の観点から、5年後にはここを離れてほしいの。ただしその時には学園での働き口を紹介できると思うわ。だからこれから5年間、ここでしっかり働き、そして学びなさい」
「はい、わかりました。ありがとうございます」




