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砦での生活に慣れたころ、ターニャは砦の長であるニコラスに呼び出された。

何か大きな失敗をしてしまっただろうかと、最近の行動を反省しながらターニャはニコラスの執務室に向かった。掃除の手伝いで何度か執務室に入ったことはあったが、呼び出されたのは初めてである。ターニャは緊張して執務室の扉をノックした。


「ターニャです。お呼びと聞き参りました」

この口上は呼び出しを告げたミレーネから教えてもらった。次は言われた通りにすればいい、と言われたが、何を言われるのだろうか。そう思っていると、扉の内側から声がした。


「ああ、ターニャか。中に入りなさい」


中に入ると、ニコラスと妻のメラニーが待っていた。砦では長の妻は『奥様』ではない。れっきとした女性の働き手である。とはいえ、実際に体を動かして働くのではなく、縫物や見習いたちの学習時間の教師役といった仕事をしていた。ターニャも縫物の仕事をするときに一緒になったこともあった。そんな時は縫物や刺繍のコツを教えてくれたり、いずれ必要となる知識を話してくれるのだった。


「今日呼び出したのは、ターニャの見習いの仕事についてだが、この砦で働けるのは5年間だと思っておいてほしい。普通の見習い期間が10年ということはわかっているが、砦に年頃の娘がいるのはやはり色々と問題が生じる恐れがある。問題が起きないようにするのが私の仕事だ。君は学園を目指すのであるから、今から5年あれば十分だとは思っている。一応仕事に関することなので、執務室に来てもらったが、詳しいことはメラニーから聞いてくれ」


ターニャは初め、何を言われたかよくわからなかった。辛うじてわかったのは、詳しいことはメラニー様に聞けばいい、ということだった。メラニーもターニャの戸惑いを理解して、すぐに執務室から自室へとターニャを伴って移動した。



「さて、ターニャ。聞きたいことがたくさんあるでしょう。あなたはまず、何を聞きたいかしら?」

「あの、見習いとして働けるのは5年だけ、ということですよね。それは私がここで働くだけの力がないからなのでしょうか」


尋ねるターニャの顔は真っ青だった。


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