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そうしてしばらくすると、ターニャの生活もまた落ち着いた生活に戻った。なにしろ10年という余裕があることと、加護がどういうものかよくわからないことで、まあ、なんとかなるだろう、という楽観的な雰囲気で落ち着いたのだ。
それからのターニャの生き方は平穏と言えるものだった。ジルと結婚し、子供は一男一女。妊娠中も出産も体調に何も問題はなく、
「出産はとても大変なものだと聞いていたけれど…」
と独り言をこぼしたのに対し、
「加護があるのだから出産で問題なんか起こるわけが無いだろう」
とイコに言われ、思わず納得してしまったこともあった。
「皆出産は大変だ、命懸けだ、と言うのが不思議だったけど、村では加護があったから、そんなに大変なことだとは思わなかったのね」
「そうだね。ターニャは加護があるから、無い人とは感じ方が違うはず。でもこの街で加護を持っているのはターニャとジルとあなたたちの子どもだけ。加護の無い人たちと暮らしていれば、加護は広がるか、それとも無くなるか。どうなるか、楽しみね」
そうイコに言われ、ターニャは不思議に思った。
「加護がなくなってしまうの?」
イコは笑って言った。
「いずれ加護の無い人と縁を結ぶことになるでしょう?その時に相手が加護を得ようとしてくれるか、相手に合わせて加護を捨てていくか。もともとターニャも村を捨てた訳でしょう?子どもだってどうするかわからないわ」
「やっぱり、捨てたことになるのかな?」
「加護がある人間は精霊との絆が大事だから、どうしても人との縁が薄くなる。だから仕方のないこと」
これには本当にターニャは驚いた。
「そうなの?」
「そう。一番大事な絆は精霊とのもの。ターニャは村の精霊とは絆が無かったけど、精霊自体との絆はあった。だから私と絆を結んだ」
「なんだか難しいのね。とにかく私にとって一番大切なのはイコだ、ということよね。それは確かだわ」
建国300年の祝祭の際、精霊教会の宣言は『今後も精霊はフェンベルグ王国を見守り続ける』というもので、加護については何も言及されなかった。人々はそのことに戸惑いながらも、それを気にし続けることもなかった。ターニャの加護についても、特別な加護を持つ者がいる、ということはすっかり忘れられてしまったかのようだった。そこに精霊の意図があったのかどうか、知る者は精霊ばかりである。
読んでいただきありがとうございます。尻切れトンボみたいになってしまいましたが、これで完結とさせていただきます。とにかく書き続ける、を目標に気づけば3年2か月。ダラダラと続けるよりは年末という切りの良い所で終わりにしようと決めました。
ここまで書き続けられたのはブクマや、いいね、感想を下さった方々のおかげです。本当にありがとうございました。
今後は読みやすく手直ししていきたいという想いもありますが、予定は未定です。できれば別の作品でお目にかかれればと思います。