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ヴェルムはターニャの口調にたじろいだ様だった。そしてしばらく考えた後、自信無さげに言った。
「王族にも根回しされていた、互いに了解していた、そういうことなのか?」
ターニャは貴族的な笑みを浮かべ、
「お分かりいただいたようでよかったです」
と答えた。
「ターニャはこのことを知っていたのか?」
ヴェルムが悔しそうに尋ねたが、ターニャは静かに頭を振った。
「すべてを知っていたわけではありません。ですが、知っていることをつなぎ合わせれば、そう判断するしかありません。そして、そこに了解があるなら、私が何か言うべきことはありません」
「だが、今精霊様の意思を伝えられるのはターニャしかいないだろう。精霊様はあの宣言を納得されているのか?」
「されていますよ」
これならば納得するだろうと思った言葉にあっさりと返されて、ヴェルムは絶句した。
「イコが言っていました。あの宣言には偽りはない。だから気にしないと」
呆然とするヴェルムにターニャは更に言った。
「ヴェルム様、私たちはもう学生ではありません。失敗を見逃してもらえる時期はもう終わっているのです。まさか気づいておられないということはありませんよね?本来であればヴェルム様が王家と精霊教会の間を取持つ役割を果たすべきだったのではありませんか?わざわざ問題を起こすようなことをなぜしようとするのですか?」
ヴェルムは溜息をついた。
「私はまた間違えたのか。教会でなら少しは兄上のお役に立てるかと思っていたのだが、役に立ちたいと思うあまり空回って、余計なことをしようとしていたということか。ターニャにも迷惑をかけたな。もう一度よく考えてみよう」
ターニャは居住まいを正して口を開いた。
「私が助言させて頂くのはこれまでにして頂きたいと思います。私にはもう婚約者がおります。仕事上もヴェルム様との関りはございません。ヴェルム様には私以上に相談すべき方がいらっしゃると思います」
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