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ターニャは1人になると早速イコに尋ねてみた。
「今日の発表のこと、精霊様達はどう思うのかしら」
「特にどうも思わない。今回言われたことは『この国に加護は必要ないと精霊は考えている』『10年後には加護は無くなる』『精霊はずっとこの国を見守っている』ということだ。この国に加護が必要ないと思っていることは事実だし、加護が既に無いのだから10年後には無い、ということも間違ってはいない。そしてエルヴィーラを捨てたこの国がどうなるか、私たちが見守っている、というか見定めようとしていることも、言葉的にどうかとは思うが、まあ、間違ってはいない。だから今回の発表については人間とはうまい言い回しをするものだと思うだけだ」
そう言ってから、イコは少し首をかしげた。
「だがこれでこの国との縁が切れるのかと思うと、なんとなく不思議な気がするこれは何という気持ちなのだろうか……」
ターニャは少し考えて声をかけた。
「それは『寂しい』のではないかしら。エルヴィーラの力の石を捨てられて怒ったのも、人と関わることができなくなってしまって寂しかったのではないかしら。今まではそれを怒る、という形での関りがあったけれど、それも無くなってしまう……。だから寂しく感じるのではないかしら?」
ターニャとしては割としっかりと考え、そうだろうと思って話したのだが、イコの返事は冷淡だった。
「それは無い。エルヴィーラの力を捨てた人間が決別を宣言したからといって、寂しがる必要なんて無いのだから。本来ならせいせいしたというところだろう」
その返事を聞いて精霊様はやはり人間とは感じ方が違うのだな、とターニャは少し寂しく感じた。
「だが精霊は必要とされないとその存在自体が不安定になる。だからこの街では精霊は精霊として存在できず、精霊石になってしまった。でも今回あえて宣言したことでかえって精霊の存在を思い出した人間が多いように感じられる。だから、本当に私たちはこの国を見守ることができるのかもしれない」
そういって笑ったイコの表情はかつてないほど晴れやかだった。
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